また、少し時が過ぎて。宇宙の発展は順調に進んでいた。それは女王アンジェリークと補佐官レイチェルの力あっての
ものだ。
「……で。聞いてる、アンジェ?」
「うん……」
生返事にレイチェルは溜め息を吐く。最近、ずっとこうなのだ。この宇宙に初めて生まれた金と緑の瞳を持つ命は成長し、
青年となった。そして…アンジェリークがわずかに感じていた彼のサクリアは完全に覚醒した。そして…彼を迎え入れる日が
近づいてきた。
「しっかりしてよ。もうすぐだよ。彼が来るのは。一緒に宇宙を支えるメンバーの一人になるんだよ。女王がそれでどうするの」
「ごめん…レイチェル……」
アンジェリークがおかしい原因をレイチェルは知っている。けれど…いまだに彼女の口からそれを語られることはない。
「そんなに…会いたくないの、彼に?」
「レイチェル…知ってたの?」
愕然とするアンジェリークにレイチェルは平然と言葉を続ける。
「当然だよ。ワタシを誰だと思っているの?」
「そう……。」
少し脱力したようにアンジェリークは椅子に腰をおろす。
「ごめんね、黙ってて。でも、恐かったの。彼のサクリアが完全に覚醒する日が……。そしたら…彼はここに来るから。その
時、ちゃんと向き合う自信がなかったの。前世の記憶なんて、覚えてるわけないけど…恐かったの。ごめん……」
「莫迦だよ、アナタは。ワタシは補佐官である前に、あなたの親友だよ。莫迦だよ……。一人で我慢してて……」
レイチェルが抱きついてくる。アンジェリークはなだめるようにレイチェルの背中を撫でる。
「ごめんね…レイチェル……」
親友の気遣いが嬉しい反面…自分自身を情けなく感じる。それでも…アンジェリークの瞳から涙がこぼれることはなかった
……。
それでも時は過ぎる。そして、彼を迎え入れる日がきた。
「では…陛下。時間です。」
「ええ。わかったわ。」
深呼吸を一つ。女王の衣装を着た自分を鏡に映してみる。
(大丈夫……。女王の顔してるね、私……)
そう自分に言い聞かせて。アンジェリークは鏡に向かって微笑む。
「じゃあ、行きましょう。」
「はい。」
レイチェルを伴って、謁見の間に向かう。そこまでの道程はほんの数分。けれど、アンジェリークには途轍もなく長く感じられた。
「女王陛下がお見えです」
女王の玉座に腰掛けて。青年を見つめる。銀色の髪。金と緑の瞳。面影は何一つ変わっていない。涙がこぼれそうになる。
「女王陛下に挨拶を……」
レイチェルの言葉に青年は恭しく頭を下げる。
「お初にお目にかかります、女王陛下。アリオスと申します。どれだけのことができるのかはわかりませんが…陛下のお役に
立つことを約束します」
声も懐かしいそのもの。けれど…もう、彼はアンジェリークの知るアリオスではないのだ。
「よく…来てくれました。この宇宙はまだ発展途中です。これから先、私とレイチェルと共にこの宇宙を支えてくださいね」
震えそうになる声をなんとかこらえる。今までだって、こらえてこれた。だから…今度も……。
「それでは…レイチェル。彼にこの地のことを案内してあげて……」
「はい、わかりました。」
あとはレイチェルに任せれば、安心だろう。ほっと溜め息を吐く。
「これで今日は終わりなのか?」
アリオスの問いにレイチェルは明るく応える。
「ええ。今日の公務はこれでおしまい」
「そうか…なら、遠慮はいらないな……」
「……?」
ツカツカと女王の玉座までアリオスが歩いてくる。ぽかんと見ているレイチェル。そして、何が起きたのかわかってない
アンジェリーク。
「こいつは借りてくからな……。」
気がつけば、アリオスに抱きかかえられていた。
「ちょ…ちょっと、アリオス!」
先に正気に戻ったレイチェルが慌ててアリオスを止めようとするが、どこ吹く風と行った様子。
「なんだよ。公務は終わったんだろう?」
「そうだけど。でも、陛下をどこにつれてくの?!」
アリオスの腕の中のアンジェリークもコクコクとうなずく。
「補佐官殿…この言葉を知ってるか?」
「何よ……?」
「『人の恋路をじゃまする奴は…』ってやつだ」
「……!」
その言葉に力が抜けたようにレイチェルは納得する。
「ああ…そう……。じゃ、勝手にしてちょうだい」
そう言って、道まで開けてくれる。
「ちょっ、レイチェル!」
ようやく事態を飲み込んだのか、アンジェリークが救いを求めるが、レイチェルはどこ吹く風。アリオスはアンジェリークを抱えたまま、
謁見の間を後にした。
「明日も公務があるんだから、あんまり疲れさせないでね!」
背後から聞こえてきたレイチェルの声が恨めしいアンジェリークであった。
|| <BACK> || <NEXT> || <Going my Angel> ||