一方、新宇宙では……。
「アンジェリーク…じゃなかった、女王陛下。少しずつ生命は増えてきているし、宇宙も安定してきてる」
「そうなんだ。でも、まだまだ頑張らないとね」
 レイチェルから渡された書類を受け取って、アンジェリークは微笑みで応える。けれど…その笑みには
陰がある。

(まだ…なんだね……。アンジェリーク……)
 複雑な思いにレイチェルは捕われる。自分たちの生まれ故郷の宇宙が危機に陥った時、それを救う旅に
赴いたアンジェリーク。レイチェルは共に行くことはできなかった。でも、信じていた。必ず、アンジェリークは
無事に帰ってくると。

 レイチェルの信じていた通り、アンジェリークは無事に帰ってきた。宇宙の危機も救われた。だが…その時
からだ。常にアンジェリークの笑顔の中に微かな陰が差し込んでいたのは。いつもどこか、寂しさを感じさせる。
レイチェルが好きな明るい笑顔が見られないのだ。

(あのコのせいなんだね……)
 新宇宙に宿った一番最初の生命の報告をした時、アンジェリークが無意識に流した涙。
『何でもないの……』
 いくら理由を問い質そうとしても、何も言わなかった。だが、そういわれておとなしく引き下がるレイチェルではない。
彼女達の故郷である宇宙に一番最初の生命が生まれたと言う報告をする時に、王立研究院の主任研究員であり、
昔からの知人でもあるエルンストに問い質したのだ。エルンストは躊躇いはしたが、淡々と語ってくれた。

『あなたは彼女の補佐官です。知っていたほうがいいですね』
 彼にしても…気にかかったことなのだろう。冒険のこと、戦いのこと、そして…アンジェリークの負った悲しい傷の
ことを……。

『その生命が皇帝、いや、アリオスのものかはわかりません。ですが、そうやって生まれてきたのなら、今度こそは
幸せになってもらいたいものです。何よりも…彼女自身のためにも。』

 普段はお堅い研究員の彼が淡々とではありながらも、どこか祈りを込めて告げた言葉。
『わかった。ありがとう、エルンスト。』
 そう言っても、多少は悔しかったのは事実。女王と補佐官という立場の前に、二人は親友なのだ。その親友の自分に
すら、語ってくれないことがあったことに。けれど…親友だからこそ、アンジェリークは無意識にレイチェルの前で涙を流
せたのかもしれない。

「アンジェリーク。もっと発展させようね。この宇宙を。みんなが幸せになるように」
「うん。頑張ろうね。レイチェル」
 だから、今は気付かぬ振りを続ける。彼女に本当の笑顔を蘇る日までに。それができるのは悔しいけれど、レイチェル
ではない。彼女が愛した青年だけだから。

(早く…大きくなりなさいね……。そして、もう二度と、あの子を泣かせるんじゃないわよ……。)
 レイチェルは祈る。たった一人の親友のために。もう一度、笑顔で過ごせる日が来ることを……。

 神秘の空間にいる神秘の生命体。それは彼女が女王候補の時に意志を交わしあい、育てた聖獣。
「アルフォンシア……」
 そっと名を呼ぶと、聖獣はアンジェリークに擦り寄る。
「ね…アルフォンシア。あの子から…ううん、彼から、サクリアを感じるの。あの子は…もしかしたら……」
 言いかけて、言葉を閉ざす。自分はこの宇宙の女王として、アルフォンシアに向き合っているのだ。
「ごめんね…アルフォンシア……。私なんかが、女王で……。」
 アンジェリークの呟きにアルフォンシアは首を振る。幸せでない女王など、アルフォンシアとて望みはしない。女王が
幸せであればこそ、宇宙は安定するのだから。

「キュルル……」
「わかってるの。ちゃんと向かい合えるようになるから。だから、こうやって、もう少しだけ彼を見守らせてね……」
 神秘の空間に映し出される光景。アンジェリークが司り、守り育ててゆく宇宙。最初の生命が生まれてから、人口は
着実に増えていった。新しく生み出されてゆく命、編み出されてゆく技術、拓かれてゆく世界……。そして、その中心
には常に“彼”がいた。金と緑の瞳を持つ少年は成長し、自然と人々を導く存在になっていた。

 いつからだろう。彼から不思議なサクリアを感じたのは。今はまだ、アンジェリークとアルフォンシアしか感じていないが、
本格的に覚醒すれば大きな力を手にする。そうなれば、彼を迎える必要がある。

(今度こそは…幸せになって……)
 そう望むのはわがままだろうか。それでも…願わずにはいられない。自分自身の幸せはもういいから。彼が生きている…
それだけでいい。 
 天使は一人祈る。けれど…天使は気付かない。彼女自身が真の幸せを感じなければ…誰も幸せにならないのだ…と。

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