そして、夜。眠りに着いたアンジェリークは今日も夢を見ていた。
“誰か…助けて……”
強く願う声。アンジェリークは精神を磨ぎ澄ます。一言も聞き漏らさないように。そして、自分の声が届くように。
(ねぇ…あなたは誰? 私に何ができるの?)
闇に向かって、手を伸ばす。アンジェリークの手から紡ぎ出される、黄金の光。女王のサクリア。それは闇を拭い去ってゆく。
(これは……?)
光が照らし出したのは深い闇の入り口。そして…泣いている少女。
「誰?」
少女が顔を上げる。アンジェリークは思わず声を上げそうになった。彼女が見知った少女に余りにも似ていたから。
「あ…あなたが助けを求めているのが聞こえたから」
それでも、動揺を見せないあたりが女王らしくなってきている。
「どうして、泣いているの?」
アンジェリークの問いに少女は迷ったような表情をする。
「安心して。あなたをどうこうしようとするわけじゃないの。どうして、泣いているのかな…って思ったの」
そう言って、少女に向けるのは慈愛に満ちた天使の表情。
「あなた…天使……?」
「…うーん。そうなるのかしらね。名前はアンジェリークって言うんだけど」
「アンジェリーク……。私の知っている天使と同じ名前……」
呟くような少女の言葉にアンジェリークはクスリと笑う。
「あら、そうなの? あなたは私と同じ名前の天使に似ているわ」
「……!」
はっと顔を上げる少女にアンジェリークは穏やかに微笑む。
「あなた…エリスでしょう? あの子に、アンジェリークに聞いたわ。あなたのことも、皇帝…いえ、レヴィアスのこと……」
「この宇宙の、女王…陛下……!」
慌てて、少女は、エリスはアンジェリークにひざまずく。
「お願いです! あの人を罰しに来たのなら…止めてください!」
「エリス……」
アンジェリークは膝を着いて、優しくエリスの肩に手を置く。
「私はそのために来たんじゃないわ。あなたが泣いてるのが、祈りが聞こえたのよ。『助けて』って……。だから、来たの」
「陛下……。お願いです…あの人を救ってください……」
アンジェリークにすがるエリスの肩を優しく撫でてやる。しばらくして、ようやく落ち着いたのか、エリスは少しずつ語り始
めた。自分たちの過去やレヴィアスのこと、彼らが育った宇宙のこと……。
「あの人は私のために罪を負ってしまった……。あの人のしたことは許されるべきことではないけれど…あの人を独りに
したのは私……。あの人は誰よりも孤独だった…のに……」
「でも…あなたは彼を傷つけたくなかったからでしょう?」
「あの時はああすることが一番だと思っていた……。けれど…彼は自分が傷つく道を選んでしまった。あの人を独りにした
のは私の罪だから……」
愛していたから…その思いが二人をすれ違わせた。悲しい…結末。
「私にはあの人を止めることができなかった……。でも、この宇宙に侵略した時、あの人は天使に出会った……」
「あの子のこと……?」
アンジェリークの言葉にエリスは頷く。その瞳は不思議と嫉妬とかそんな感情はなく、どこか憧憬を映していた。
「最初は私の魂の器を作るための存在として見ていたはずなのに……。でも…わかるんです。彼女は私と違う。彼女なら
彼を癒せる…天使なんだって……。不思議ですね……。嫉妬とか感じないんです」
「……。」
たぶん、それは彼女が本当にレヴィアスを愛し、その幸福を願っているからだとアンジェリークは思う。
「最後まで彼女はあの人を選ぼうとした。負けた…とも思いました。何があっても、あの人を選ぶつもりだったのに…私は
あの人を独りにしたんだから……」
何を捨てても…自分の命を捨ててでも、たった一人の青年を選んだ少女。それは裏切りなのかもしれない。けれど、
それは少女にとってのたった一つの真実だったのだ。
「あの人は彼女の手を取ることができなかった……。彼女の手を取ることで…今までの自分を否定するのが恐くて……。
そして、彼女を汚すことが恐くて……」
そうして…自分自身を消滅させることで自らの人生の幕を下ろしてしまった。天使に深い悲しみを残して……。
「あの人は今…闇の中にいます。すべてを背負い…闇の中でその魂を苛ましている……。もう…私の声も届いていない……。
それが自分の罰だと言うように……。」
「闇の中……。」
天使の手を取るには余りにも汚れすぎた魂。青年は闇の中にこもり、その罪を見つめ続けるのだろうか。天使の心に傷を残したまま。
「お願いです。女王陛下。あの人を救ってください。あの人の魂を癒してください……。私はどんな罪でも背負います。だから……」
アンジェリークはエリスに優しく微笑みかける。
「陛下……?」
「あなたの気持ちはわかったわ。でも…肝心なのは彼の意志。たぶん、今の彼には私のサクリアは届かないわ。」
深い闇の中に手をさしのべても、光は闇に拡散される。
「私も彼を救えるものなら救いたい。あの子のために。あの子が負った心の傷を癒せるのはほかの誰でもない…彼だもの。」
救いたかったはずの孤独な魂を救えなかった。少女は気丈にも笑顔を最後まで見せていたが、その心にどれだけの傷を
負ったのだろう。
「少しだけ、私に時間をちょうだい……」
「陛下……?」
「ごめんなさい。説得に時間がかかると思うから……」
アンジェリークの言葉にエリスは首を傾げる。そんなエリスに、アンジェリークは軽く苦笑するしかなかった。
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