この子が私の心の一部……」
ルヴァの腕の中に抱かれた少女は不安げにアンジェリークを見ている。小さな頃から持っていた熊のぬいぐるみ。
女王試験の時にも持ってきていた。
「私…女王失格ですね……。こんなふうに自分の心をコントロールできないくて……。みんなに迷惑かけて……」
自嘲気味に言うアンジェリークに慌ててルヴァは首を振る。
「そんなふうに言っちゃいけません。貴方は一生懸命やっています。ただ、忘れないでほしいんです。貴方が貴方で
あることが大切だと言うことを……」
「私が私であること……?」
ルヴァは静かに頷く。
「貴方が貴方の心を持ち続けることを……。迷いも悩みもそうです。もし、迷ったら、私たちに頼ればいいんです。その
ための私たちですから……。何でも一人で背負おうなんて考えないで……」
「でも…私は……」
「最初から完璧な女王なんていません。貴方が貴方でなくなることのほうが私は…いえ、みんな辛い。みんな、貴方が
大好きなんですよ。この子が確かめてきたんだから……」
じっとアンジェリークを見つめる少女。その瞳に見つめられると、自分の心を見透かされるようで。当然だ。心の一部
なのだから。
「ごめんなさい……」
一雫、頬に涙が伝うと、あとはもう止められなかった。
「ごめんなさい……。私…私……」
ポロポロと涙が伝う。恐かったのだ。自分の迷いを認めることが弱さを認めることになりそうで。だから、しっかりしよう
と思い続けて。いつしか、心の一部を閉ざしていた。そのことでどれだけ、みんなに心配をかけるのか考えもせず。
「あー、泣かないでください……。あぁ、すみません。どうも、お説教になってしまって……」
アンジェリークの涙に慌てるルヴァにアンジェリークは首を振る。
「違うんです……。だから……」
そっと掌で涙を拭う。そして、ルヴァの手に抱かれている少女に微笑みかける。
「ごめんね……。一人にさせて……。おいで……」
そっと手をさしのべる。少女はその手とルヴァを見比べる。
「いいの……?」
不安げな少女にアンジェリークは頷く。ルヴァは何も言わずにアンジェリークに少女を委ねた。
(ごめんね…私の心……。帰ってきて…くれるのね……)
少女を受取った瞬間、暖かな光に包まれる。そして…伝わる暖かさ。
(伝わる…みんなの想いが……)
自分を好きでいてくれる守護聖たちの気持ちが心を包む。しっかりしようと張りつめた心のままの自分に、こんなにも
暖かな気持ちを注いでくれていたのに、気づこうともしなかった。それなのに、とても暖かい心をくれて……。こんな自分
でもいいのだ…と……。「私…幸せな女王なんですね……」
泣き笑いな表情のアンジェリークにルヴァは頷いて、そっとその頭に手を載せ、撫でてやる。
「ルヴァ…様……」
「え…へ、陛下……!」
しがみつかれて、戸惑いはするが、気を取り直して、その頭を背中を撫でてやる。それが今できる精一杯だから。
「陛下……。あの…私は無器用な人間ですから…何人の人を愛することはできません……。今も、これから先も……。
けれど、その分、一人の人を限りなく想うことはできると思うんです……」
その言葉は泣きじゃくるアンジェリークに届いているのかどうか、ルヴァは分からない。ただ、心のままに言葉を紡いで
いるだけ。
「きっと貴方を想い続けてますよ……。今も、これから先も…守護聖をやめた後も……きっと…ね……」
最後の言葉は風の中に解けてしまった…微かな声。それ以上はルヴァは言葉を紡がず、優しくアンジェリークを抱きし
めるだけであった。
「陛下!」
ルヴァとともに戻ってきたアンジェリークを他の守護聖たちは囲む。
「陛下……」
ジュリアスが何か言おうとすると、
「どいてくださいませ、ジュリアス様!」
と、ロザリアが制する。
「ロザリア……」
「馬鹿よ! あんた…馬鹿だわ!」
頭ごなしの怒声に何が起こったのか分からない様子のアンジェリーク。こんなに怒るロザリアなんて見たことない。
他の守護聖たちも呆気にとられている。
「冗談じゃないわよ、迷いがあったなんて。何のために、私が…守護聖様たちがいると思ってるのよ! 馬鹿よ…あんた
……」
最後には泣きながら。ロザリアの真剣な気持ちが心に染みる。
「ごめん…ごめんね…ロザリア……」
アンジェリークの言葉にロザリアは首を振l、ただアンジェリークを抱きしめる。そのまま二人して、泣きじゃくってしまう。
「ロザリアに先を越されてしまったね……」
「うん、ロザリア、すごい……」
呆然とその様子を見ているランディとマルセル。
「まったく…女って奴は……」
ゼフェルももうなにも言う気にもなれない様子。
「ルヴァ…あんた陛下に何を言ったの?」
「え…えー、なにも……」
「嘘。すごくいい表情してるもんね。悔しいくらいに…ね」
クスクスとオリヴィエは笑う。この無器用な地の守護聖様の成果に少しばかりの感謝を込めて。
「ジュリアス……」
「なんだ、クラヴィス……」
「明日からは騒がしい日常になるかもしれぬ……」
「それは…おまえが言うようにいまさらの話だ……」
そう、改めてまた始まる日常。にぎやかで楽しい日常になるだろうと誰もが思う。そのことを楽しみに思うものはいても、
反対するものなどいないだろう。幸福でない女王など…誰も望みはしない……。
そう、アンジェリークがアンジェリークであれば……。
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