そして、少し時が過ぎた。女王、アンジェリークを女王補佐官のロザリアや、守護聖たちは女王をよく補佐した。
そんな中でのある日のこと。
「女王試験を行ないます」
突然の招集。鈴の転がるようなソプラノの声で告げられた言葉は、まるで近所のケーキ屋に行くような口調で
告げられた。女王の真意を図る守護聖たちの対応に女王アンジェリークは笑顔を見せるだけ。ロザリアと二人、
秘密を知った悪戯っ子のような表情をして。 それから、聖地を訪れた女王候補を指導するための教官と協力者。
そして、二人の少女。
新しい風が再び聖地を駆け抜けていった。
そんな日が始まって、一月ほど過ぎた日の曜日の朝。感性の教官であるセイランは外を歩いていた。何となく…
女王候補の一人を誘いたい気分になったのだ。
「あれ…ルヴァ様……?」
のんびりと釣竿を持って歩いているルヴァを見かける。ルヴァもこちらに気づいたのか、穏やかな笑顔をセイランに
向ける。
「おや…早起きさんですね、セイラン……」
「ルヴァ様は釣りですか?」
「ええ。のんびりと釣り糸をたらしているのが好きでして……」
確かにアクティブなことはいっさい似合わないと心の中で思うセイランである。思わずこんなことまで言ってしまう。
「ルヴァ様なら、魚に餌をとられても気づかないんじゃないですか?」
「おや、なぜ、わかるんですか?」
「……」
半分は冗談のつもりだったのだが、この人には冗談が通じないことを改めて認識するセイランである。
「あなたは…お散歩ですか?」
「ええ…まぁ……」
「あぁ、そうですか、散歩は健康にいいんですよねぇ……」
老人じゃないんだから…と思いつつも表情には出さない。あくまでも、この人は真面目なのだと思うことにする。
「それじゃ……」
そう言って、踵を変えようとするセイランであったが、不意に塀の向こうから見えた手に動きが止まってしまう。
ルヴァも壁を見る。ここは女王候補たちに用意された特別寮の裏側にあたるのだ。
「それ!」
元気な声とともに手が身体を支え、ひょいと少女の姿が塀を超えて、舞い降りてくる。スタ! 着地成功に少女は
満足げな表情。そ んな少女を迎える拍手の音。
「あ……」
ようやくセイランとルヴァに気づいたのか、少女は固まってしまう。
「やぁ、おはよう。着地成功おめでとう」
「あぁ、おはようございます」
二人に挨拶されて、少女はようやく固まりから元に戻る。
「あ…おはようございますって…違う! やだ、見てたんですか?」
「あぁ、大丈夫です、私とセイランしかいませんでしたからね……」
ハッキリ言ってそういう問題じゃないのだが、これがルヴァらしい。
「ん…ピンクの水玉。僕としてはブルー系のほうが好みなんだけど」
「やだ、見たんですか?!」
あわてて、スカートを押さえる少女。
「言葉を間違えないでくれないか? 見たんじゃなくて、見えたんだ。不可抗力だから、仕方ないだろう?」
極めて迷惑そうな表情のセイラン。けれど、ハッキリ言う彼にも問題があるような気がする。
「あぁ、あの…何の話ですか?」
二人の会話に着いていけないルヴァ。少女は慌てて、首を振る。
「な…なんでもないんです」
「はぁ……」
この俗世間からかけ離れた人には知らなくてもいい世界の話である。
「それより、門から出ればいい話だと思うけど」
「だって、今日は日の曜日で庭園に商人さんが来てるんです。早く行かないと、売り切れちゃうし。こっちからが
庭園に近いんです」
「で…壁を乗り越えてって訳?」
あきれるを通り越して、感心の域だね…と冷たいセイランの言葉。けれど、日の曜日の買い物もサバイバルな
のだ。
「あの…このことはほかの方には……」
恐る恐るの少女の言葉にルヴァはクスクス笑う。
「わかってますよ。でも、アンジェリーク。やっぱりあなたは元気がいいですね。陛下もずいぶん、明るく快活な方
でしたが、あなたはそれ以上のようだ」
「ははは……」
思わず笑ってごまかすアンジェリーク。
「あぁ…急いでいるんでしょう? 私も釣りに行く途中ですし、じゃ、この辺で。それでは……」
「はい、釣れるといいですね、ルヴァ様」
アンジェリークの言葉にルヴァは頷くとセイランが見たときと同じようにのんびりと歩いていったルヴァであった。
「君、嫌じゃない? 他人と引き合いに出されて?」
「え……。ルヴァ様のことですか?」
セイランの言葉に戸惑うアンジェリークである。
「陛下に似てるって言われるのは、光栄なことじゃないですか。私、別に気にしません。気にしたって、仕方ないし」
「ふーん、そうなんだ……」
明るく答える少女につまらなさそうな表情のセイラン。
「でも、ルヴァ様って…もしかしたら、陛下のこと……」
「そうでしょうね。以前、陛下のことをおっしゃっていたルヴァ様、すごく優しい表情でしたから……」
クスクス笑いながらの言葉。それもセイランは気に入らない。
「それでも、気にならないんなら、君はよっぽど神経が太いのか、寛大なんだね」
「だって、すごく優しい表情なんですよ。きっとすごく想っているんですよ、今でも……。ルヴァ様にとって、それほど
までに価値がある方に似ているってことは、最高の誉め言葉だと思うんです。私も、私を想ってくれている人がそんな
優しい表情で私のことを語ってくれたら…って、思っちゃいましたもの」
「そういう解釈もあるんだ……」
愛し方など人によってさまざまである。けれど……。この少女は自分を語るとき、どんな表情をしているのだろう。
「あ、やだ。急がなきゃ」
よくよく考えてみると、ずいぶん話し込んでしまった。急がなければ、もう一人の女王候補、レイチェルに先を越さ
れてしまう。
「君、買い物の後は用事ある?」
あわてるアンジェリークを制してのセイランの言葉。
「いえ…特に……」
「今日は僕は庭園でケーキを食べたい気分なんだ。君が特に予定がないのなら、僕につきあってくれないか?男
一人でケーキを食べるのには勇気がいるからね」
「セイラン様……」
どうして、この人はこんなに回りくどいのだと思いながらも、にっこりと頷くアンジェリークである。元々、アンジェ
リークが今日買いたかったものはこの人に差し上げたいものだったのだから。
「はい、喜んで!」
「じゃあ、いこう」
二人して、日の曜日の庭園に向かう。今頃、ルヴァはお気に入りの場所で釣り糸をたらしている。それぞれの休日は
これから始まろうとしている。そして、聖地にふく新しい風は少しずつ波紋を広げていく、けれど…変わらぬ想いもまた…
輝き続けている。それはきっと変わることなく……。
……Fin.
これはいとこのところで書かせてもらったものです。もう、とにかくみんなに愛されているリモージュちゃんを目指したの。
だって、私はリモージュちゃんラブラブの人だもん。そして、ルヴァ様ファンなんだし。
エピローグのセイランを見てね、いとこが「セイランを好きになった」と言ってくれたのが一番の印象です。思えば、これが
初書きのコレットちゃんだったような…。
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