連れてゆく途中の聖殿の廊下。そこに集っている人たちにオリヴィエとクラヴィスは戸惑ってしまう。
「あら、どうしたの、皆さん、おそろいで……」
 そこにはルヴァ以外の他の守護聖とロザリアの姿。
「実は……。クラヴィス様……」
 何かを言おうとするが、その前のオリヴィエの腕に抱かれて眠る少女に戸惑うリュミエール。
「その子は……?」
「その様子だと、みんな会ったんだね、この子に……」
 腕の中の少女を起こさないように、静かに答えるオリヴィエ。
「ルヴァ以外の者は皆この者を見た。オリヴィエ、そなたは気づいているのか、この者の正体に……。クラ
ヴィス、そなたも……」
 ジュリアスの言葉にオリヴィエは静かに首を振る。
「みんな…知ってるよ……。この子のことは……」
「それは一体……?」
 誰もが首を傾げるしかない。
「ん……」
 周囲の騒ぎのためか、二、三度、瞬きをし、身じろいでから、少女は目を開ける。しばらくはぼーっとして
いたのだが……。
「やー、あのおじさんがいる」
と、オリヴィエにしがみついてしまう。
「こらこら。恐いかも知れないけど、まだお兄さんだからね」
 そう言ってオリヴィエは優しくその背中を抱いてやる。
「何を震えている、大人げない……」
「貴様と同じ年代で、なぜ私がおじさんなのだ」
「見たままを言ったまでだろう……」
 しれっとしたクラヴィスの言いように更に怒りに肩を震わせるジュリアスである。
「俺、絶対、クラヴィスとリュミエールだけは敵に回したくない」
「僕も……」
「同感……」
 年少組の見解は…今回はとても正しいのかも知れない。
「さて…冗談はさておき……」
 くるりと踵を返し、クラヴィスは少女を振り向かせる。
「そなたにとって、恐いと思うこの者もまた守護聖。そして、陛下に対する想いも同じ……」
「お兄ちゃん……?」
 きょとんと首を傾げる少女に今度はオリヴィエが答える。
「みんな、陛下が大好きなんだよ。そうだろ、ジュリアス」
 話を振られて、ジュリアスは戸惑うが、そこは光の守護聖。
「当然だ。我らは女王陛下に仕える身であるが、それは陛下に心からの忠誠を誓ってるからこそ。そして、
陛下は我らの忠誠にふさわしい方だ」
「堅苦しい言い方だけど…陛下が好きなことには変わりないんだよ」
「うん……」
 嬉しそうに頷く少女。訳が分からないのは他の者たちだ。
「どういうことなのですか……?」
「答えは…この子を連れていってから話してあげるよ、ロザリア」
「え……?」
 それ以上は答えず、オリヴィエとクラヴィスは歩き始める。他の者たちも訳が分からないままついてゆく。
着いていったその先は……。
「ルヴァの執務室じゃねーか」
「そう言えば、ルヴァ様だけまだなんだよね……」
 そんな言葉を気にせず、オリヴィエは扉をノックする。
「どうぞ、入ってください」
 返事と同時に、オリヴィエは部屋を開ける。入ってきたときに感じる本独特の匂いが鼻をつく。ルヴァは本の
整理をしている様子。
「おや、皆さん、おそろいで……」
 日常からかけ離れたのんびりとした様子。すると、少女はオリヴィエから下りて、ルヴァに近づいてゆく。
「こんにちは」
「こんにちは…アンジェリーク……」
 そのルヴァの口にした言葉に驚く面々。オリヴィエとクラヴィスだけは自分の考えの正しさを確認した様子。
「やっぱり…ルヴァ様にはわかるんだ……」
 少し複雑な表情の少女。ルヴァは静かに微笑んでいる。
「あー、すみません。しばらく、二人にしてくれませんか……」
「わかってる、ルヴァ。頼んだよ」
 そう言うと、オリヴィエはルヴァに道を空ける。ルヴァは少女を静かに抱き上げ、この部屋を後にした。
「どういうことだ……?」
 事情の分からない者たちはただ呆然と、わかっているオリヴィエとクラヴィスは後のことの成功を祈るだけで
あった。

 聖殿の奥深く、女王の間。そこで女王アンジェリークは一人で宇宙の様子を見ていた。若く力に溢れた女王。
だが、その表情にはどこか疲れが映っている。
「しっかりしなきゃ……」
 幾度となくつぶやいたその言葉。そして、張りつめた表情。
「ねぇ……」
 不意に呼びかけられて、アンジェリークは意識を戻す。自分を呼んだのはいつも傍に居てくれるロザリアでは
なく…あどけない声。

「誰?」
 張りつめた声が響く。すると、朧げに小さな少女の姿が見えた。
「あなたは……?」
 知らないはずの少女だった。なのに、泣きたくなるような懐かしさ。
「ねぇ…まだ駄目なの……?」
「何のこと?」
 首を傾げるアンジェリークに少女は悲しげな瞳でぎゅっと手にしていた熊のぬいぐるみを抱きしめる。そのぬい
ぐるみを見て、アンジェリークは表情を変える。

「それ…私が持っていたのと同じ……? あなたは……?」
 愕然としながらも、アンジェリークは少女の元に歩み寄ろうとする。だが、少女は突然駆け出してしまった。
「待って……!」
 とっさに追いかける。分からない衝動。けれど、とても大切な何かのような気がする。追いかけなければきっと
後悔するような……。


 少女を追いかけて、たどり着いたのは森の湖。
(あの子は……?)
 周囲を見回すと、誰もいない。息を整えながら、探そうとする。
「陛下……」
「え……?」
 戸惑いは大きくなる。アンジェリークの前に現れたのは少女ではなく、ルヴァの姿。どうして、ここに? と。
「あー、驚かせてしまいましたかね……」
「いえ…私も、こんな所に一人で来て……」
 気遣うルヴァに首を振る。自分の責務を忘れて、女王である自分がこんな所にいるのだから。だが、ルヴァは
穏やかに微笑んで言った。

「探し物でしょう? 私はあなたの忘れ物を届けにきたんです」
「え……?」
 ルヴァの腕の中にはいつしかあの少女がいる。
「あなたの心の忘れ物です…陛下……。いえ、アンジェリーク……」
優しく呼びかけるルヴァの言葉。敬称ではなく名前をあえて呼ぶ。
「私の心の…心の忘れ物……?」
 静かに頷くルヴァにアンジェリークはただ呆然とするしかなかった。

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