「きゃっ!!」
「こういう関係なわけだ」
「〜」
いきなり現れてこれはないと思う。
「フゥン、そうなんだ……」
驚きもせずにセイランは二人を見つめる。
「…の割にはパートナーを一人にしておいて。あんまりいいことじゃないね。実際、彼女は絡まれてたわけだし」
「見事に撃退してたみたいだが」
アリオスのその言葉にアンジェリークは思いっきり複雑なものを感じた。どこまで、彼は見ていたのか。多分、男の
背中にけりを入れたシーンのことを言っているのだろうが。
「ま、いいけど。邪魔者は消えた方がよさそうだし?」
「判ってるじゃねぇか」
鼻で笑うアリオスにセイランはかすかに眉を顰めた。
「じゃあね、アンジェ。僕はまだあの家にいるから。いつでもおいで」
「あ、うん」
立ち去るセイランの背中を見送るアンジェリーク。
「どういう関係だ?」
声がどこか鋭く感じる。
「どういうって……。昔やってたバイトで知り合った人よ」
他に良いようもない。超一流の芸術家でありながら、気まぐれな猫のような性格の持ち主で。実は出会いもまっとうな
出会いではなかったのだ。
「チャーリーさんと知り合ったきっかけの人でもあるの」
ある意味、色々な意味でのきっかけの持ち主だったと今更ながらに思ってしまった。
「昔の男…とかじゃなくて?
アリオスのその言葉にアンジェリークは思い切り首を振って否定した。
「冗談じゃないわよ。顔は綺麗だけど、中身はとんでもないのよ。あの人に口で勝とうとは思わないことね」
ふぅ…と思いため息。実感が思いっきり伝わってくる。
「まぁ、とんがってるもん同士だから、難しいかもな」
「……どういう意味よ」
「さぁな」
キッと見上げてくる瞳がやはり印象的だ。引力を伴う輝き。惹きつけられてやまない。チャーリーもソウだったように、
セイランもそうなのだろう。
「踊るか?」
「何よ、突然」
いきなりの話題の変換にアンジェリークはついていけない。だが、アリオスはそんなアンジェリークの手を強引にとって、
フロアに連れて行ってしまった。
「ちょ、ちょっと、私、踊れないって……」
「俺がリードしてやるよ」
アリオスのリードは強引だけれど、何とか様になってしまっていた。たちまち、フロア中の注目を浴びてしまう。端整な
顔立ちの青年と華のような少女の取り合わせはそれだけで絵になっていたのだ。
「1,2,3…って、あんよは上手」
「ちょっと、聞こえるから恥ずかしいわよ!」
「じゃァ、リズムに乗れるようになれよ」
踊っている二人にはロマンも関係ないようだ。だが、1曲踊るうちに何とかアンジェリークもリズムに乗れるようになって
いた。
「中々、センスはいいじゃねぇか」
「そう?」
言われても実感などない。アリオスのリードに任せるうちに足が覚えたのかもしれないと思うことにする。
「ベッドの中よりはずっと覚えがいいんじゃねぇか?」
「!」
その言葉に思わず足を踏んでやろうとしたが、アリオスにリードしてもらっている状態ではそれもかなわず。アリオスを
楽しませる結果になるだけだ。
(やっぱ、この人って……)
キッとアリオスを見つめるアンジェリーク。
周りから見れば、似合いのカップルであり、絵になる光景に映っていようが、関係ない。
「じゃじゃ馬ならし…にも程があるね」
離れた場所でグラスを傾けながら、セイランはクスリと笑った。見ていて、中々に楽しい。
「今度、チャーリーを問い詰めてみる、か」
セイランもアンジェリークのことは気に入っていた。甘い語らいを交わす恋人同士にはどうしても見えない二人ではある
が、二人の空気に絵になるものを感じていた。
今、読み返すと。アンジェリークって怖いわ……
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