軽やかな音楽が流れる広間。色とりどりに着飾った淑女たちをエスコートする紳士たちの姿。
(なんで、私、ここにいるんだろう……)
 華やかなパーティー会場の中にいる自分へのとてつもない違和感。オレンジを基調にしたミニのドレスにパールイエロー
のローヒール姿の自分の姿に溜息をつきたくなる。オトナ特有の艶やかさを持つ女性たちばかりの中、どう見たって、浮いて
いる。
(さっきから視線が痛いし、私、絶対浮いてるよ〜)
 いきなり、アリオスにこのドレスに着替えるように言われ、メイクはオリヴィエに施してもらった。
『素材もいいし、肌も綺麗だしね。あんまり、手を加えることもないね』
 そう言って、ナチュラルメイクにしてくれた。その時、鏡に映った自分がシンデレラのように魔法をかけられたような気分
だった。
 だが、今、こういった雰囲気の場所にいると、居心地が悪くて仕方ない。自分をここに連れてきたアリオスを怨みたくなる。
「何もじもじしてんだよ」
「だって、こんな場所に連れてこられるなんて考えてないわよ……」
 憮然とした口調でアリオスを睨みつける。そうしたところで、かれに通じるはずはないが、アンジェリークの気分の問題だ。
「我慢しろ。こういう場でオンナを連れて来るのはマナーだからな」
「判ってるわよ」
 自分の立場は判り切っている。少なくとも、こういう場所でコトに及ばれるわけではないのだからと、自分に言い聞かせるしか
ない。
「いかがですか?」
 ボーイが二人にカクテルを勧めて来る。
「あ、私は……」
 遠慮する前にアリオスは二人分を受け取り、グラスの一つをアンジェリークに持たせた。
「アリオス!」
「別にどうしようってわけじゃねえだろ。それにこの程度なら、ジュースみたいなもんだ」
「もう」
 渋々ながらも、口にすると、口辺りがよく、飲みやすい。
「美味しい……」
「あんまり、飲み過ぎるなよ。酔っ払いを相手にするのはかまわねぇが、後になって記憶がないって騒がれるのは困るしな」
「あのねえ!」
 ムッと顔をしかめるアンジェリーク。楽しそうな顔でその様子を観察しながらも、アリオスは自分たちに向けられる招待客の
視線を感じていた。自分だけではなく、アンジェリークにも、だ。このことをアンジェリークに話せば、自分は場違いだからと不
機嫌を露にするだろう。だが、実際は違う。アンジェリークの魅力によるものだ。
 女性として、まだ完成されていないがゆえのあやうさとみずみずしさを併せ持った美しさ。ここにいる女性たちがとうの昔に
失ったもの、だ。
 そして、鮮やか過ぎる程に、意思の強さを輝きにした瞳は人を魅きつけて離さない。
 アリオスに向けられる視線ですら、男たちの羨望、あるいは嫉妬で満ちたものが多い。
(自分のことを一番よく判ってねえようだ、な……)
 天性の魅力というものだ。こればかりはいくら着飾ったところで身につくものではない。逆に美しく彩られることで、それが
増してしまう場合もある。アンジェリークの場合は後者だ。
「何よ?」
 怪訝そうにアリオスを見上げるアンジェリーク。未だに自分自身を知ることがない。いや、知らなくていいとすら思う。
 全ての仕種、表情、動作をアリオスだけが知ればいい。そう、夜の帳の中でも、だ。自分自身で作り上げた鎖に縛られ続ける
少女のすべての姿を。
 逃げるという選択肢を自ら放置している。考えもつかないのか、諦めているのか。いや、自分で決めたことだから、と答える
のだろう。自分の意思で決めたことだから、と。その強ささえもアリオスを楽しませていることを知ることもない。

裏日記からの再録部分です。これが当分続きます……。

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