その日の仕事も終わる頃、アリオスが店にやってくる。
「飯」
「……帰る早々の一言がそれ?」
「お前が望むんだったら、こいつの前で別のことをしてやってもいいぜ?」
「……遠慮するわよ」
 なんてことを言うのだろう。オリヴィエはアンジェリークの事情を知ってはいるが、だからと言って彼の目の前で
交わす会話にも限度があるはずだ。恥ずかしくて仕方がない。そんなアンジェリークにオリヴィエは助け舟を出して
くる。
「いいよ。仕込みは終わってるんでしょ? 片付けは私一人でできるから」
「すみません」
 何だか申し訳なくて、謝るアンジェリークにオリヴィエは笑顔で手を振る。
「いいよ。この馬鹿のわがままで大変だね〜」
「誰が馬鹿だ」
 軽口を言い合う二人を置いて、アンジェリークは慌てて夕食の支度に向かった。その後姿を見ながら、オリヴィエは
アリオスにひじをつつく。
「あんたもデリカシーがないね。あの子はどう見たって普通の女の子なのに、ね。あんたの知るすれた連中とは話が
違うんだよ」
「…だろうな」
「わかってて、なのか。まぁ、私が干渉することじゃないけど?」
 肩をすくめて、オリヴィエは苦笑する。どういったって、聞くような男ではないとは知ってはいるのだが、彼の生来の
性格からは言わずにはいられなかったのだ。
「そういえば、あいつ、化粧してたな」
「あ、気づいてた?」
「気づかないと思うか?」
「じゃぁ、褒めてやればいいのに。軽く化粧をしただけだけど、なかなかでしょ?」
 くすくす笑うオリヴィエにアリオスは何かを思いついたような表情になる。
「あれに連れて行ってもいいかもしれないな」
「あれって、あのパーティーのこと?」
「ああ。毎回連れてく女を手配するのも面倒だしな。その時は頼んだぜ」
「はいはい。でも、あの子は化ける子だよ? せいぜいさらわれないように、ね」
 オリヴィエの指摘をわかっているのかわかっていないのか。アリオスは唇の端に笑みを浮かべるだけ。
(縛っているからって言う優越感はどうなもんなねぇ……)
 アンジェリークにとって、それは絶対的なものだとわかりきっているからくる余裕なのか。それはわからない。だが、
二人の関係は確かなようで曖昧だ。恋愛でも何でもない関係。だが、アリオスは自分の気に入った人種にしか関わりを
持たない。そして、仕事で利用できる人間だ。アンジェリークが後者であるはずがないのだ。それが意味するところを
アリオスは気づいているのか、いないのか。おそらくは気づいてはいないのだろう。
(ま、私には口を出す権利も義務もないからね……)
 結局はそんなものである。他人がどういおうと、結局本人たちの問題なのだから。第三者がどういっても二人が作り
上げてゆく関係にものをいうことなどできはしない。
「夕食ができましたよ〜」
 呼びにくるアンジェリークの声に促されて、その場を後にするアリオスの背中を見送ると、オリヴィエは曖昧な笑顔をただ
浮かべた。


何ヶ月ぶりだろ……。とりあえず、裏日記のあれにつなげようかと……

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