オリヴィエの元でアルバイトをするようになってから、アンジェリークの生活に張りが出て来た。元々、働くことは好きなので、
一人でアリオスの部屋で時間を過ごすよりもずっと性にあっている。
 細かい伝票整理や店番、掃除など、やることはたくさんだ。昼と夜の食事作りもその一環だ。
「ん、美味しいよ」
「ありがとうございます」
 ミックスサンドとゆで野菜とこんにゃくのサラダにオリヴィエはおいしそうに食べてくれる。
「よく働いてくれるし、料理は美味しいし。いいコで良かったよ」
「そんな。いい材料を使わせてもらってるし……」
 謙遜と本音が混じる。オリヴィエが農場を経営している知人から直接譲ってもらっている野菜や肉類は店で買うものよりずっと
美味しくて。それを無駄にするような真似など出来るはずがない。
「アリオスとはどう?」
「どうって……」
 そう聞かれても、どう答えたらいいのか。オリヴィエもアンジェリークの事情を知っているだけに返答に困ってしまう。
「ああ、ごめん。変な意味で聞いたんじゃないよ」
 笑いながら、オリヴィエは手を振る。
「ああいう奴だからね。振り回されもしてるだろうなって思ってさ。あいつから見たあんたってば、からかいやすそうだし」
「それは私が子供だからですか?」
 十歳以上も年が離れているのだ。身体はともかく、中身はアリオスから見れば、十分な子供、だ。どんなに頑張ったところで
彼に軽くあしらわれるだけだ。
「それは違う。あんたがちゃんとオンナしてるからだよ」
「ちゃんとって……」
 オリヴィエの言ってる意味がわからない。ちゃんとと言われても、アンジェリークは間違いなく遺伝学上の女性なのだから。
「何て言ったら、良いのかな? あんたってば気が強くて、下手に媚る性格じゃなさそうだし。だからこそ、落としがいがあるんだよ」
 私だって一応はオトコだから、と付け加えてオリヴィエは笑う。
「この私が認めるよ。いいオンナになるよ、あんたは。だから、そのままでいたらいいよ」
 そう告げて、食事を終えると、オリヴィエは部屋を出た。アンジェリークは食器をキッチンまで運ぶと、洗いものをはじめた。
(オリヴィエさんは私に何を言いたいんだろう……?)
 彼の意図するところがわからない。どんなにアンジェリークがあがいたところでアリオスにはアンジェリークを絶対的に支配する
力を持ち合わせていて。最終的にアンジェリークはアリオスに屈するしかないのだ。
(私たちはそういう二人だもの……)
 身体が、心が最後には逆らえないのだ。
「なんて顔してんの」
「キャ!」
 ポン、と背中を叩かれて、驚いてしまう。
「ごめん、驚かせたかな?」
 振り返れば、手にメークボックスを持ったオリヴィエが立っていた。
「いえ、気配を感じなかったので……」
「ああ、ごめん」
 苦笑が混じりつつも、オリヴィエが謝ってくれるのでとりあえずは受ける。
「お詫びにって訳じゃないけどさ、ちょっと時間あるし。私に魔法を使わせてよ」
「魔法?」
「そう。私のとっときのね」
 問い返して来るアンジェリークに、オリヴィエはメークボックスを手にして鮮やかな笑みを浮かべた。


新しい展開です。まっとうなシーンが一番ですね(>_<)

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