結局、その日は夕方までオリヴィエのところで色々と事務を手伝い、夕食を作る事になってしまった。同じビルのフロアに住居も
構えているらしい。
「ここの管理人も兼ねてるからね」
「そうなんですか」
管理人なら、家賃もただなんだろうなぁ…などとも考えてしまう。住居用の部屋もかなりの広さである。
「じゃぁ、任せてくださいね」
「悪いね〜」
「いえ、私も食べさせてもらいますから」
「材料は中にあるものを適当に使っていいよ」
「はい」
返事をしつつ、恐る恐る冷蔵庫の中を見る。アリオスと同じ事はないだろうけれど。
(あ、良かった、まともだ……)
野菜が割と多いのは、美容のためだろうかと思いつつ、アンジェリークは冷蔵庫の中身を吟味する。
「じゃあ、任せてもらいますね〜」
鶏肉のソテーとサラダ、スープとメニューを決めて、アンジェリークはエプロンをつけて、料理をし始める。キッチンは広く、使い
勝手がいい。アパートの狭いキッチンと比べたら、天と地のようだ。
「いいにおいがするね〜」
「ええ。カロリー控えめで栄養たっぷりです〜、期待していてくださいね」
「楽しみにしてるよ」
リビングから声をかけてくるオリヴィエに応対しながらも、アンジェリークの手はてきぱきと動いている。もともと、家事は嫌いでは
なく、むしろ好きなほうだ。レイチェルと同居中もも食事当番はアンジェリークが受け持っていた。
「ふーん、気が強いだけかと思ってたら、意外に器用じゃねぇか」
「――?!」
突然の背後からの声にアンジェリークは反射的に身を振り返る。気配など、まったく感じなかったのだから、驚かざるを得ない。
「アリオス?!」
「何だよ。鳩が豆鉄砲食らった顔して?」
「何で、ここにいるの?」
「それは俺のせりふのはずだが」
確かにアリオスの言葉どおりだ。本来なら、アリオスの家でアリオスの帰宅を待つべき立場なのだから。オリヴィエに甘えさせて
もらったアンジェリークの分は悪い。
「ま、おまえの性格からして、逃げ出すとも思えないしな。案の定ここだったというわけだ」
「……」
出会って、数日しかたっていないのに、行動パターンを読まれてしまっていることに愕然とする。そんなに自分がわかりやすい性格だとは思ってはいなかったのだが。
「ちょっと、エプロンプレイは自宅でやってね。ここは私んちだって事をお忘れなきよう」
「お、オリヴィエさん!!」
投げかけられたとんでもない言葉にアンジェリークは真っ赤になる。
「アハハ。冗談だよ。真っ赤になって、かわいいね〜」
「言っていい冗談と悪い冗談もあります〜」
真っ赤になりながらも、フライパンの中の肉を焦げ付かせるようなことはなく。
「大体、アリオスが悪いのよ! 冷蔵庫の中にろくなものが入ってないんだもん」
「酒とチーズでカロリーは取れるだろうが」
「私は未成年よ!」
どういう食生活をしているのだろう。ため息をつきたくなる。
「飯はこいつんところでたかりゃいいからな。自分で作る必要がなかった」
「……聞くんじゃなかったわ」
ため息を一つつく。先行きの不安がまた一つ増えた気がした。
「盛り付けるから、お皿出してよ」
「はいはいっと……」
それ以上は何も追求する気にもなれずに、アンジェリークは食事の支度に取り掛かった。
「たいしたものじゃないんですけど……」
作りたての湯気を上げる食事にオリヴィエは楽しそうに笑う。
「ううん、上等。誰かに作ってもらう料理ってのはいいね。それがかわいい女の子だったら、なおさら、ね。誰かさんはたかりに来る
しさ」
「はぁ……」
結局、この二人は仲がいいんだろう、と結論付ける。そうでなければ、食事をともにしたりはしないはずなのだし。
「へぇ、結構、食えるもん作るじゃねぇか」
「誉め言葉として、受け取っておくわ」
むっとしながらも、作り笑い。これも一つの社交辞令というやつだ。
「でも、本当においしいよ。これなら、毎日でも作ってもらいたいね。アリオスもいいだろ?」
「ああ、そうだな。おまえに預けとくか」
「じゃぁ、決まりだね」
二人の間に交わされる会話の意味が見えてこない。きょとんと首をかしげるアンジェリークにオリヴィエは極上の笑みで告げた。
「さっきの話は決定だよ。アリオスがいない間は私のところで働くといい。食事もあんたに任せることにした」
「はい?!」
話が本当に見えてこない。どういう展開になっているのか。思わず、アリオスに視線を向ける。
「ま、そういうわけだ。頑張れよ」
「頑張れよって……」
わけがわからないうちに決められてしまったことにアンジェリークはただ呆然とするしかなかった。
やっと、アリオス登場。さて、また、裏に戻るのか……。
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