「うーん、純情で、正直な子だねぇ……」
 からからとオリヴィエは笑う。そんな笑い方をされたら、怒る気力も失せてしまう。
「でも、その調子じゃ、もう手は出されたようだね。素人同然の子をねぇ……」
 まじまじと見つめられると居心地は悪い。オリヴィエははっきり言って男性にしては綺麗な顔立ちで。曲がりなりにも女である
自分でもコンプレックスを抱いてしまいそうになるほどに。
「まぁ、そういうこと。とりあえず、説明するよ。おいで」
 オリヴィエに促されて、アンジェリークは彼についていった。

 液晶の画面と手書きの売上表とにらめっこしながら、アンジェリークはデータを打ち込んで行く。
 とりあえず、今日はオリヴィエの元で仕事の見学兼簡単な書類整理の手伝いをすることになった。本当は今日からでも働き
たいとアンジェリークは言ったのだが、オリヴィエは首を縦には振らなかった。
「あんたの主のアリオスの許可が下りないと、勝手は出来ないんだよ。あんたはあいつに買われた立場なんだよ。それは判るね?」
 やんわりとした笑顔でそう諭されてしまえば、黙って頷くしかない。見た目は華やかではあるが、中身はきちんとした思想を持って
いる。人は見掛けで判断してはいけないという例を見た気がした。
「昨日までの売上の入力が終わりましたよ」
「ああ、ありがとう。助かったよ」
 爪が傷むのが嫌だからと言いながら、オリヴィエはアンジェリークにデータの打ち込みを頼んだ。実際、彼の爪は綺麗なネイル
アートが施されていて、芸術とも言えそうだ。
「ちょっと確認させてもらうよ」
 そう言いながら、打ち込まれたデータと帳簿につけていたデータを見比べる。
「完璧だね。たいしたもんだ。学校で覚えただげじゃこうはいかないね。勉強してた?」
「いえ。前に住んでたうちにあったんです。親友が教えてくれて……」
 言いかけて、アンジェリークは口ごもる。オリヴィエはそれを見逃さなかった。
「別にそこまで答えなくてもいいよ。ただ、感心しただけだし。でも、こういうことができるんなら、私的には店の方を手伝ってもらい
たいね」
 そう言いながら、アンジェリークの肩をポンと叩く。
「オリヴィエさん……」
「あいつが何をしているか知ってるかい?」
「いいえ」
 静かに首を振る。出会って、すぐにアリオスに買われてしまったけれど、何一つ彼のことを知らない。何をしているのか、歳は
いくつなのか、何処で生まれたのか、必要最小限のことも本当に何一つ知らないままに、彼に抱かれてしまったのだ。
「知りたいんなら、話すけど?」
 親切めいた言葉とは裏腹にアンジェリークを試すような色が瞳に浮かんでいる。だから、アンジェリークは再び頭を振った。
「おや、興味ないのかい?」
 大袈裟に肩を竦めてみせるオリヴィエにアンジェリークはきっぱりと答えてみせた。
「必要があったら、自分で聞きます。そういうことは本人の口から聞くのが大事だと思いますし」
「あいつがあんたに本当のことを言うって信じてるわけだ」
 挑発するようなオリヴィエの口調。ここでアンジェリークが乗ってくるかどうか見ているらしい。
「本当の事も何も。言いたかったら自分で言うでしょうし。私があの人のそこまで干渉する権利はないでしょう?」
 当然のようにこたえるアンジェリークに一瞬オリヴィエは呆気に取られる。次に瞬間に爆笑。
「面白い子だね、あんたって〜」
「はぁ……」
 笑われた方のアンジェリークとしてはどう反応していいのかわからない。馬鹿にされているわけではない事だけは何とかわかる
のだが。
(強かでしなやかで……。確かにあいつの回りにはいなかったオンナだね。それも極上だ……)
 商売抜きで彼女に似合う服をデザインしてみたい。そんな考えになるオリヴィエであった。

久々に出せた彼女らしさです。つぎからは裏モードのコース変更を……。

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