スーツケースを手にアンジェリークはアリオスの後をついてゆく。過程はどうであれ、自分はこの男に買われたのだ。それが
一時の間なのか、無期限なのか。ただ、それだけの違いにすぎない。
「どこに行くの?」
「俺の家に行く前に寄るとこがある。何だよ、待てねぇのか?」
「違うわよ!」
きつい視線で言い返すアンジェリークに怒るでもない。むしろ、反応を楽しんでいるのだ。
「なら、黙ってついてこい」
「……わかったわよ」
 何を言っても、アリオスにとってのからかいの種にしかならない。それなら、黙っていた方が得策だ。
 しばらく歩くと、雑居ビルにたどり着く。1Fには大きなディスプレイに色とりどりの女性ものの服が飾られている。どうやら、
ブティックのようだ。アリオスは躊躇なく中に入って行く。
「ここは……?」
「何してる。入ってこい」
 入り口の前でどうするのか、と立ち止まるアンジェリークは促す声に仕方なく、入った。
「あれ、珍しいじゃん、どうしたの」
 中には派手ないでたちの人物がいた。男なのか、女なのか、アンジェリークは判断に困る。きらびやかな衣装とアクセサリー
に身を包んではいるが、アリオスほどではないが、見上げなければ、顔が見えない長身と低い声、綺麗ではあるが、女性的な
美しさと違う顔立ち。
「あら、どうしたの、この子。可愛い子じゃない?」
「あの……?」
その人物の興味か自分に移り、どう反応したらいいのか、判断に困り、救いを求め、アリオスに視線を向ける。
「おい、オリヴィエ、男のくせにあんまり化粧臭い顔を近付けるな。こいつが困ってる」
「何よ、その言い方は。私の美しさにケチをつけるのかい?!」
アリオスの言葉で性別が判明したのはいいが、アリオスにかみついてしまった。
「男の人だったんですね。お綺麗な方なので、判らなかったです」
半分はフォロー、半分は本音である。性別を感じさせない美しさが彼にはあった。
「ふーん。あんたが連れてきたにしては、ちゃんと審美感があるコだね♪」
再び、まじまじと見つめられる。
「ふーん、素材はなかなかだね。ちょっとお肌は疲れぎみかな。若いからって、寝不足や偏った栄養の取り方は良くないん
だよ。健康な生活にこそ、美しさの源があるんだからさ☆」
「は、はぁ……」
「あ、信じてないね? そんなだと、数年後に泣くのはあんただよ☆」
 などと、びしっと言い切られても、困るものは困るのだ。
「ま、素材自体はイイカンジだね☆ 特に瞳。引き込む感じだし。なかなかの逸材じゃない。どうしたの、このコ?」
「話は後だ。先にこれを見てくれ」
そう言うと、アリオスはアンジェリークが手にしていたスーツケースを取り上げる。
「アリオス?!」
何をするのかと、抗議の視線を向けるアンジェリークを気にすることなく、アリオスはスーツケースの鍵を開け、中を開いて
しまう。
「こいつの荷物だがな、服に変なものが仕込まれてないか、調べてくれ」
「あんたね……。女の子の荷物を開けるんだったら、一言くらい断りな! ったく、デリカシーがない男だね」
そう言いながら、オリヴィエはアンジェリークに微笑みかける。
「ごめんね。別に、こいつの肩を持つわけじゃないけど、仕事柄、敏感にならざるを得ないんだよ。そういうわけで、荷物を
調べるよ?」
「あ、かまいません……」
元々、自分の荷物ではなく、チャーリーが持たせてくれたものだ。そのことがあるから素直に応じることができる。まして、
チャーリーが何かしてくるとは考えられない。オリヴィエは安心したように微笑すると、スーツケースの中を調べ始める。
「なかなかのデザインだね…って、これ、チャーリーに頼まれて、私が仕立てたものばかりだよ」
 憮然とした表情でアリオスをにらみつける。
「この私が仕立て上げたものに、余計な小細工するような男だったら、頼まれてやらないっての」
 ブツブツト言いながら、中の服を1枚1枚調べてゆく。アンジェリークの瞳から見ても、上等な生地で丁寧に仕立ててある、
ブラウスやスカート。ドレス。
「そっか。チャーリーが気に入っていたオンナのコってのは、あんたのことか……」
「え?」
 オリヴィエの言葉にアンジェリークは首を傾げる。
「うん。気に入った子がくるからってね。で、サイズだけは聞いて、私がいくつか仕立てたんだよ」
「そうなんですか……」
「本人連れて来いって言ったんだけどさ。まだ手元には来ていないからって言ってたけどね〜」
 からからと笑うオリヴィエに対して、アンジェリークは複雑な思いになる。彼はどこまで知っているのだろうか。チャーリーは
自分のことをなんと言っていたのだろうか。いくら割り切ったとはいえ、見知らぬ人間が自分の事を知っていたとなると、やはり
複雑なのだ。
「直接会ってれば、もっといいデザイン用意したのに。どんな子なのかわからないから、シンプルでとりあえず、誰がきても
無難なデザインのものしか作れなかったんだよね〜。会わせてくれてれば、あんたの魅力を際立てる事間違いないものを作れた
のにね♪」
「チャーリーが直接会わせなくて、正解だったな」
「どういう意味だい、アリオス?」
 思わず、握りこぶしを作ってしまうオリヴィエだが、はっと顔をあげて、アリオスを見つめる。
「そうだ。何であんたがこのコと一緒にいるわけ? チャーリーのところのコになるんでしよ?」
「ああ。俺がこいつを買ったからな」
「はい?」
 思わずまじまじとアリオスとアンジェリークを見比べてしまう。性格的にものにも人間にも執着しない男が、である。年端も
行かない少女、しかも、他人のものになるべきだったのをである。チャーリーがとてもこの少女を気に入っている事は言葉の
端々から感じていた。自分の手で女に仕立てるのだ…とも言っていた。そのチャーリーに諦めさせたのだろうか。
「そういうわけで、あいつが余計なものを仕込んでないか。気になってな」
「はいはい……。とりあえず、調べはしたけど、変なものはないよ。いくら私の手を離れてとはいえ、私の作品たちに変な小細工
をさせるわけがないだろう」
 それが彼の服を手がける者としてのプライドである。スーツケースを閉めると、アンジェリークの足元に置く。
「はい。良かったら、ここに服をそろえにくるといいよ。あんたに似合うもの、デザインしてあげるから」
「ありがとうございます」
「礼儀正しい子だね〜。アリオスにはもったいないよ」
 うんうんと頷くオリヴィエにいささか不機嫌そうな顔をする。
「行くぞ、アンジェリーク」
 そういうや否や、店を出てしまう。
「あ、待って。アリオス。あ、あの。ありがとうございました」
 慌てて、アリオスについてゆくアンジェリーク。そんな二人を見送って、オリヴィエはくすくす笑う。
「さぁて、どうなるんだか……」
 はっきり言って、野次馬根性丸出しである。だが、それが彼らしいといえば、彼らしいのであった。



jまた登場人物増やして、どうするんだ、私……。

|| <絶対的関係
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