「ごめんな。あんたの意思を無視する形になっとるなぁ……。でもな、これだけは信じて欲しいんや。俺はあんたが気にいっとったん
やけどな、アンジェちゃん……」
 苦笑交じりに告げながら、チャーリーはアンジェリークの栗色の髪を優しく撫でる。
「チャーリーさん……」
「俺の手であんたを“女”にしたかったんやけどな……」
 そう、アンジェリークが自らの身体を商品にしたいと言い出した時、チャーリーはこの少女を自分の手元に置くことをひそかに決めて
いたのだ。自分の手で、“女”として花咲かせ、教育を施し、一人前のレディに育て上げるつもりだった。自らの側にいるのが相応しい
女性として。
「とんびに油揚げ掻っ攫われるっちゅうのは、このことやなぁ……。まあ、あんたはしっかりしてるさかい、こいつのところに行っても
大丈夫やろ」
 ポン…と、肩をたたく。
「話が終わったんなら、行くぞ」
「あんまり、せっかちなんは嫌われるで」
 そう言いながら、肩をすくめるチャーリー。
「ちょっと待っとき。アンジェちゃんに用意させた服、持って帰ってもらうから」
「荷物になるなら、いらねぇぜ」
「そんなこといいな。皆吹っ切るために、服やなんやも処分して、当座の服も持ってないんやからな。一週間分の着替えがあれば、
着回しが出来る。後は買うてもらい。それと、これ」
 チャーリーが机から出したのは貯金通帳。
「あんたが自分を売って作った金や。何かあったら、当分はこれで食える」
「チャーリーさん……」
 中の金額はそこそこ入っていて。とても、自分の価値や相場はよくわからないが、小娘に払う金ではない。
「これ、多すぎないですか?」
「何言うとる。俺はそれだけの価値があんたにあると思ったんや。あんたはな、あんたの気づかないところですごく魅力的な女の子
なんやで。それに金はないよりはあったほうがいい。ええから、持っとき!」
 無理やりに通帳をにぎらさせてしまう。
「人の買ったもんをそそのかすんじゃねぇよ」
 冷ややかに告げるアリオスの態度がなんだか悔しい。だが、何もいえるはずがない。アンジェリークは今、この男に買われたのだ
から。
「私、絶対、あなたなんかになびいたらしないから」
 それでもそう言ってしまうのは、彼女のせめてものプライド。だが、そのプライドをアリオスは簡単に嘲り笑う。
「言ってろよ。そのセリフがどこまで持つか見届けてやるさ」
 戦いの幕が静かに上がる瞬間をチャーリーは見た気がした。ぞくり…とした何かが、背中に這い上がる。このとき、初めてチャー
リーは二人の怖さを垣間見た気がした。

 十分ほど過ぎて、スーツケースにまとめられた荷物を受け取ると、二人はチャーリーの事務所を後にした。
「あんな言い方、チャーリーさんに失礼だわ」
「失礼、ね……」
アンジェリークの言葉にアリオスは皮肉げに笑う。
「じゃあ、今のおまえの物言いは主人である俺に対して、失礼じゃないのか?」
「私、あなたに心までは売っていないわ」
「なるほど、ね……」
この少女らしい言葉にアリオスは戦慄すら、覚える。だが、黙って笑ってやるほど、甘くはない。
グイ! とアンジェリークの腕を引くと、そのまま、壁に押しつける。
「や、何……」
抗議の声は強引に唇を塞がれることで、飲み込まれる。
「ん、ふぅ……」
 強引に入り込んだ舌が口内を蹂躙する。逃げようとするアンジェリークのそれを簡単に絡み取って。貪るような長いキス。ガクガクと
アンジェリークの足が震える。余りにも深く奪われ、力が入らない。押さえ付けられた腕にかろうじで支えられている。
「はぁ……」
唇が離れ、押さえ付けていた手が外されると、ズルズルとその場に座り込んでしまうアンジェリークをどこか楽しそうに二つの色の
まなざしが見下ろしている。
「この程度のキスにも慣れてないのに、口だけは一人前なわけだ」
「なっ…!」
「せめて、俺を楽しませるくらいでないと、な」
揶揄と言うよりは、明らかな挑発。毅然とにらみつけてくる翡翠の輝きがこの先を楽しませてくれるきがして、内心で笑う。
「行くぞ」
そう言い放つと、手を差し延べることもせず、すたすたと歩き出す。
「……」
何も答えず、ただ唇をかみ締めて、アンジェリークはその後を追いかけた。

はい。テイクアウトです〜。ふぅ……。
|| <絶対的関係
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