チャーリーの事務所に辿りつくと、チャーリーはにこやかに迎え入れてくれた。
「よう来たな。待ってたで。アリオスもご苦労さん」
「ああ。まったくだぜ……」
その会話にアンジェリークは首を傾げる。
「アリオスって、チャーリーさんの部下じゃないの?」
レイチェルの件を頼んだ時、チャーリーは部下に頼むと言っていたのだ。だから、てっきりチャーリーの部下だと思いこんでいた。
「どうりで口が悪いわけだわ……」
「あのな、アンジェちゃん。俺の部下にこないに愛想のない男を追い取るわけないやろ」
大きく肩を竦めるチャーリー。
「こいつの部下になるほど、落ちぶれちゃいねえ」
どっちもどっち…な会話である。悪友と言った関係なのだろう…とアンジェリークは推測する。
「ま、どうでもいいわ。それより、よう来た。最後にもう1回だけ聞くけどな。後悔はせえへんか?」
アンジェリークの瞳をのぞき込んで訪ねてくるその言葉。逸らすことなく、アンジェリークは眼差しを返す。
「最初に私、いいましたよ。『後悔するくらいなら、選ばない。自分の選んだ道なら、後悔しない』って……」
意思の強さが瞳に宿る。色あせなく輝く瞳。それがこの少女を少女たらしめる、他者を惹きつけてやまないもの。
「ああそうやったな」
「そうです」
迷いはない。あるのは不安だけ。自分がこれからどうなるのか、ということ。どう扱われても仕方ないのだ。チャーリーの接し方は
破格にも値する。
「ま、色々不安はあるやろうけどな。最初に俺が直接面倒見るわ。あんたも知らんやつ相手にいきなりどうにかされるのも嫌やろ?」
「はい……」
確かに知らない人間を相手に最初から…というのは、躊躇いがある。だからといって、知ってる人間を相手にというのも、妙に気恥
ずかしい。だが、そんなことも言っていられない。自分自身を“商品”として、委ねたのは、アンジェリークなのだ。
「とりあえず、俺の別宅が当分の住まいや。必要なもんはある程度は用意させとるさかい、困ることはないはずや」
「……ありがとうございます」
「アリオス、世話になったな」
愛想のいい笑みを浮かべるチャーリー。だが、アリオスは不意にアンジェリークの腕をつかむ。
「きゃっっ!」
とたんにアリオスの腕にとらわれてしまう。何事かと状況を把握しようとする二人にアリオスはにやり…と笑う。
「こいつは商品になるんだよな」
「あ、ああ。うちの店で働かせるって……。アリオス、お前、まさか……」
嫌な予感がする。この手の予感ははずしたことのないことが自慢のチャーリーはまさか…という視線をアリオスに向ける。
「じゃあ、今、こいつは俺が身請けする」
「身請けっっ?!」
いきなりの展開にアンジェリークも目を丸くする。そんな二人にかまわず、アリオスはポケットから、ドサリ…と札束を取り出した。
「こいつは上物だろ? 相場的にはこれで足りるとは思うがな」
「……お前さんにまかせるんちゃうかったかなぁ」
まさかこういう展開になるとは考えてもいなかった。商売女をいくつも相手にしていた彼だったから。だが、商売女ではない普通の
少女だからこそ、彼の気をひいたのかもしれない。
「まぁ、お前さんとは付き合い長いしなぁ……」
公私とも…の仲である。貸しは作っておくに限るのだ。
「ちょっと、チャーリーさん?!」
勝手に進められてゆく展開にアンジェリークが抗議の声をあげる。アンジェリークの意思を無視して、勝手に会話が進められてゆくことに激しい憤りを感じる。予想していたその反応に、アリオスは冷ややかに返した、
「おまえ、もう覚悟をきめたんだろう? 後悔はしないんだろ?」
「ええ、言ったわ」
あくまでも、自分の意思で決めたこと、そう公言し、自分にも納得させた。
「なら、客は選べねえよな?」
「あ……」
言葉に詰まるアンジェリークにニヤリと、意地の悪い笑みを向ける。
「アリオス、あんまに意思の悪いこと言いな」
そう言いながら、アンジェリークの肩にポンと手を置くチャーリー。
「チャーリーさん……」
ほっとした溜め息をつくアンジェリーク。だが、チャーリーのそれは助け船ではなかった。
「あのな、アンジェちゃん。あんたはこの世界のことはまだよくわかっとらんのやろうけど。この世界に入ったら、そこのしきたりに従
わなあかん。俺があんたを買った以上の金をあいつは出してきとる」
つまりはそれが現実と言うこと。
「おまえに俺が今出した以上の金を今すぐに出せるって言うなら、話は別だが」
「そんなことできるわけないじゃない……」
出してもらった分の金にあらかたの利子をつけた金を用意しないかぎり、この世界から抜けられない。それには二つの方法、自分の
身体で稼ぐか、自分を気に入り、身請けしてくれる存在を見つけるかのどちらかしかない。アンジェリークに選べる答えは初めから
一つしかない。
「行くわよ……」
それは自分で決めたことがもたらせた結果なのだ、と自分に言い聞かせて、無理やりにでも納得するしかない。それがせめてもの
プライドだから。そんなアンジェリークの態度にチャーリーは内心で大きく溜め息をつく。
(見事にこの子の性格を把握しよったなぁ……)
自分で言い出したことは決して後には引こうとしない、よく言えば、意思の堅い、悪く言えば、頑固な性格。その意思の強さが彼女の
最大の魅力ではある。
ようやく、札束を出しました。しかし、この男は……
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