3人が入ったのは駅前のカフェだった。レイチェルと向き合う形でアリオスとアンジェリークが座る。
「ねぇ、話って何? 私だって、バイトあるんだしさ」
 せっかちな性格のレイチェルにアンジェリークは苦笑する。自分でこうと決めたことはとっとと行動する。それが彼女の性格。
アンジェリークはポーチから一冊の通帳を取り出す。
「はい。あなたの通帳。私が預かっていたけど、返すわ。元々はあなたのお金だしね」
「どういうことよ。これは生活費に使うって……」
「でも、元々、あなたの御両親が残してくれたお金だわ。私と暮らす生活費に当てたら、バチが当たっちゃうし」
「なんで、そんなこと言うのよ! 二人で生活するために使うお金だよ。パパもママもそれでいいと思ってるよ」
「でも、もう、私には必要ないから」
 そう言って、無理やりにレイチェルに通帳を握らせる。
「なんで、必要ないって……」
「それは……」
 チラリ…と、アリオスを見つめるアンジェリーク。レイチェルもその仕種に怪訝そうな顔をする。
「ねぇ、なんで。部外者がここにいるわけ? ワタシとアンジェの問題なんだから、席を外してくれるのが常識でしょ?」
 連れてきたのがアンジェリークであることをどうやら、忘れている様子。別にどうでもいいこと。彼は自分の役割を果たすだけ。
「頭の言いやつだって、こいつから聞いていたが。机上での頭の良さだけか。状況も判断できないとは…な」
「何よ、その言い方!」
 神経を逆なでするような言葉にあっけなくレイチェルは挑発されてしまう。
「言葉通りだぜ? お前とはもう暮せないって言ってるんだ」
「アンジェ……?」
 その言葉にレイチェルはアンジェリークを凝視する。
「それ、どういうことよ。ワタシとアンジェはずっと一緒にいるって、約束したんだから。めったなことを言わないで!」
 だが、その言葉にもアリオスは不敵に笑うだけ。
「いい加減、鈍いやつだな。知識だけの勉強でなく、人間関係の機微ってやつにも敏感になれよ。こいつは俺の女になったんだ。
恋人同士が一緒にいたいと思うのは当然のことだろ?」
「嘘……」
 まじまじとアリオスとアンジェリークを見つめるレイチェル。
「嘘よ! アンジェがアナタみたいな遊び人風の男に惚れるわけがないのよ! ワタシ、アンジェの好みくらい知ってるもの」
「好みなんざ、惚れちまえば変わっちまうんだ。ガキにはわからないだろうがな」
「嘘よ、嘘だと言ってよ、アンジェ!」
 激昂するレイチェルが詰め寄る。アンジェリークは息を飲んで、レイチェルを見つめる。
(ゴメンね、レイチェル……)
 大切な親友だから、夢を叶えて欲しい。今は憎まれてもいい。足手まといになるより、ずっとましだ。
「じゃあ、どう言ったら、納得してくれるの?」
「アンジェ……」
「私たち、いつまでも子供のままじゃいられないわ。私がこの人を好きになって、あなたがこの人を気に入らないのは好みの問題
よね。いつまでも、同じものじゃなきゃ嫌って子供じゃいられないことくらいわかるでしょ?」
 きっぱりと言いきるアンジェリークにアリオスは内心で感心する。こう言いきるには、自分の中である程度の納得が必要である
はずなのに。それを選べる心の強さ。
「それに、二人でアルバイトをしたって、所詮たかが知れてるわ。この人はお金を持ってるし。私だって、いつまでも底辺の暮らしを
したくないの。あなたには両親の残してくれたお金があるけど、私には何もないのよ。いつまでも、人のお情けで暮らしていたくない
のよ」
「何よ、それ……。ホンキで言ってるの?」
「本気に決まってるじゃない。私たちが暮らしていた家を引き払えば、あなただって、寮に入って暮せば? 寮の方が安いし、奨学金
をもらえば、生活が楽になるし、勉強も出来るわ。私と暮らすために、働くから、勉強が出来なかったって、後で言われると辛いしね。
あなたが言わなくったって、そういうの、はっきり言って、重いのよ」
 淡々とそれでいて、はっきり言いきるその言葉は鋭いナイフのように心に突き刺さる。
「それって、ワタシのことが迷惑ってこと……?」
「そうね。大事な友達だけど、押し付けがましいって思わないこともないわね」
「ひどいよ、ずっと一緒にいたのに、そんなこと言うの?」
 ある意味すごいやりとりだと傍目で見てて、アリオスは思う。相手に憎まれて、去って行こうとするのはかなりの心の負担になると
言うのに。
(まぁ、憎まれた方がましだってことだよな……)
 紫煙を吐きながら、アリオスはレイチェルを見つめている。かなり頭に血が上っているようだ。一方、アンジェリークは服の裾を手が
白くなるほどに強く握り締めていて。それでも、冷静を努めようとしている。
(そろそろ、俺の出番だな……)
 この少女二人だと、いつまでも平行線を辿りそうだ。だからこそ、アンジェリークは第三者の存在を望んだのだろう。チャーリーに
頼まれたとは言え、約束は約束で。“商品”は早めに連れ出した方がいい。
「いい加減にしとけよ。ガキ」
 凍りつくような冷たい口調で、アリオスは口を開いた。

 

流石はうちの勝気……。言うことがきつい。でも、演技ですからね。心配なさらないでください。

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