約束の時間ぎりぎりにアリオスが駅前の時計台の前に行くと、そこにはすでに少女はいた。シンプルなブラウスに黒のプリーツの
スカートと言った出で立ち。肩で切りそろえられた髪はサイドでヘアピンで留めてある。
「……お前さんがアンジェリークコレットか?」
「……あなたは?」
「この時間にお前さんがここにいるって、チャーリーの野郎に言われたんだかな」
「ああ」
ポン…と、納得したようにアンジェリークは手を打つ。
「そうじゃないかと思っていたけど。まさか、こんなにうってつけの人が来るとは思わなかったから」
「うってつけの人?」
チャーリーも同じような事を言っていた。
「ああ、聞いてなかったのかな。まぁ、言うわけないか」
一人納得したようにクスクス笑い出す少女に多少の戸惑いと苛立ち。
「ちょっとはこっちがわかるように説明できねぇのか?」
「あ、ごめんなさい。初対面の人に失礼よね」
かと思えば、ちゃんと謙虚な態度に出る。
「チャーリーさんに頼んだのよ。迎えに来てくれる人は出来たら、ワルそうな人が良いって」
「……成る程」
納得しなければならないのだろう。確かに『真面目なサラリーマンやってます』とは言えないルックスではある。
「こういうことするなら、家を出る事になるから。そのために同居人に納得してもらえる手っ取り早い理由は『男が出来た』に限るで
しょう?」
「それで俺がその役目か」
「うん。後で身体売ってるってことがばれても、『男にだまされた』って言い訳が効くじゃない。だから、ワルそうな人がよかったの」
「そこまでして、親友ってやつのためになりたいのか。たいした自己満足だな」
アリオスの言葉にアンジェリークはキッときつい視線を投げつける。
(なる…この瞳か……)
まっすぐに投げつけられるその視線は意思の強さと輝きをそのまま映し出して。深い翡翠の瞳に引きずり込もうとする。見る者を
そのまま縛り付けるかのように。
「馬鹿にしないで。私、そこまで自己犠牲と持ち主じゃないわ」
きっぱりと言いきる。その口調も確かにチャーリーの言ったとおりだ。
「私がいたらあの子の足手まといになるからよ。私のプライドがそれを許さないの。それは私の我が侭だもの。けっして、あの子の
ためじゃない」
そう言って、アンジェリークは遠い瞳になる。
「私の親友、レイチェルはすごく頭のいい子なの。飛び級で大学に行けるくらいにね。奨学金もらって、バイトすれば、なんとか過ご
せるの。あの子は私が働いているから働くって言うけどね。私はそれが嫌。確かに、二人で稼げばもっといい暮らしが出来る。でも、
あの子に自分の才能を潰してまで、働いて欲しくないの。私の自慢の親友だから、自由に羽ばたいてほしいの……」
そこまでい言うと、アンジェリークはまっすぐにアリオスを見つめる。
「だから、これは私の我が侭なの。自己満足でもね。チャーリーさんにそう話したわ」
「随分と気が強いようだが、オトコを知らないんだろ?」
「――!」
アリオスの言葉に途端に頬を紅潮させる。どうやら、図星のようだ。
「そ、それがどうしたのよ」
「口ではなんとでも言えるけどな。いざとなれば、逃げ出すこともあるだろう? おまえが思ってるような甘い商売じゃないってことだ」
「……。わかってるわ。チャーリーさんにも同じこと言われた。でも、自分で決めた事だもの。逃げ出したら、自分に負ける事になる
から。それは嫌。だから、きっと平気なのよ……」
半ば、自分に言い聞かせるような言葉。だが、その瞳の輝きは失われていない。
「ごめんなさいね。初対面の人なのに、色々話しちゃったわね」
所詮は通りすがりの人物に過ぎない…そんな彼に話すようなことじゃない。彼は彼の役割を果たしてくれればそれでいいのだ。こう
やって、何事も割り切ってきた。
「いや……」
むしろ、アリオスにとっては興味深い存在。商売柄、身体を売るオンナはいくらか見てきたが、こんなに鮮やかなオンナは稀有に
値する。彼女たちは何処か諦めたような瞳をしていたから。だが、この目の前の少女の瞳は鮮やかで。きっと、人目をひくだろう。
「じゃあ、その覚悟とやらを試させてもらおうか」
それは軽い衝動と悪戯心。その言葉にアンジェリークが戸惑う隙もなく、アリオスの唇は少女のそれをふさいでいた。
どうして、私はパラレルだと特に勝気っぷりに磨きがかかるんだろう……。
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