女王試験が開始されてからは、目まぐるしく周囲の雰囲気は変わった。明るくて、元気のいい
アンジェリークと聡明で華麗なロザリア、二人の女王候補たちがもたらした風は色々な変化を
呼んできた。周囲の空気が変わってゆく。その中で相変わらずマイペースな人はマイペースなのが
なんだか楽しい。ルヴァもその一人であった。
「今日も…良い天気ですねぇ……。」
 相変わらず、本に囲まれた生活をしながら、ルヴァはこの女王試験の日々を過ごしている。女王
候補生たちは新しい知識をルヴァに運んできてくれている。
「今度はどんなことが起きるんでしょうね……。」
 今度は誰もが幸せになれたら…とは思うルヴァである。きっと、そうなる気がする。二人の少女
たちからそう感じるのだ。
 そんなふうに思いを馳せていると、ルヴァの前に影が差してくる。あわてて、顔を上げると、
そこには……。
「あ、あなたは……!」
「こんにちは、ルヴァ様」
 夢の中の少女が今、目の前にいる。逆光が眩しく、顔が見えないが、紛れもなく夢の中の少女。
「あの…あなたは、いったい……。」
「やだ、ルヴァ様、寝惚けてらっしゃるんですか……。ルヴァ様らしいですけど……」
 ころころと笑う声。
「そろそろ行きましょうよ。みんな、待ってますよ」
 そう言って、駆け出す少女。いつも、見る夢のように。
「あ…待ってください……!」
 呼びかけても、少女はいつもの通りにかけてゆく。そう、いつもいつも……。見送るしかでき
ないルヴァ。
 バタン! 急いで本を閉じて立ち上がり、自分も追いかけようとするが、本が妙に重い。躊躇
いなく、本をその場に置いてゆく。
「待って…ください……!」
 走るのは正直行って、得意ではない。けれど…いつもいつも見送るだけでは、何もできない。
自分から、動かなければ、何も得られない。だから……。
「――。」
 知らないはずの少女の名前が不意に口からこぼれた。少女は立ち止まって振り返る。ルヴァ
自身も戸惑いながらも、少女の元に走ってゆく。今、捕まえなければ、きっと捕まらないまま
だから。
「や…やっと…追いつきました……。あなたは元気ですねぇ……。」
 そう言って、息せき切ったルヴァに少女は嬉しそうに微笑みかける。
「やっと…追いかけてきてくれたんですね……。」
 そう言って、少女はルヴァに手をさしのべる。ルヴァはその手と少女の顔を見比べる。屈託の
ない嬉しそうな表情と差し出された白い小さな手。それが自分自身に向けられていると言うこと
を知って、途端に慌ててしまう。
「あ…あの……。わ…私は……」
 思考がまとまらない。何か言いたいことが、聞きたいことがたくさんあったはずなのに。
「ルヴァ様。早く、行きましょう」
「ど…どこにでしたかねぇ……。すみません、どうも、ぼーっとしてるみたいで……」
 その言葉に少女は優しい笑顔を浮かべて答える。
「どこに行くか…はこれからです。ルヴァ様の心が知ってるはずですから。だから…行きましょ
……。」
 さしのべられたままの手に気づいて、ルヴァはその手に自分の手を重ねる。小さな少女の手は
すっぽりとルヴァの手に包まれる。少女は嬉しそうにルヴァを見つめる。その笑顔を見て、ルヴァ
はやっと自分の中の心が満たされる理由がわかった気がする。
「どうかされました?」
「やっと…わかったんです……。あなたといるとき…すごく、心が満たされる気がするんですよ
ねぇ……。どうしてだか……」
「ルヴァ様……」
「きっと…あなたがいるから…こんなにも心が満たされるんですね……。あなたの存在がこんなに
嬉しいことに……」
 自分で行った言葉に真赤になりながらのルヴァに少女はそっと背伸びをして、ルヴァに囁き
かける。
「私も…です……」
「え……あ………」
 ますます真赤になるルヴァに少女の頬も赤く染まっている。
「と…取り敢えず、行きましょうか……」
「はい……」
 最初はぎくしゃくと。けれど、次第に心の中は満たされて。スムーズに歩いて行ける。それは
…一人でなく、二人だから……。
「あなたと…だからでしょうね……。――。」
 知らないはずの少女の名を呼びかける。少女も幸せそうに、ルヴァに微笑みを返した。繋いだ
手からは…心地よく幸せな気持ちが流れ込んでゆく……。


うふふ。行動的になったルヴァ様ですぅ。

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