優しい、穏やかな陽射のような愛情を受けた花はいつも美しく咲く。花は自分に注がれた愛情
の分だけ、それに答えるのだ。マルセルの花壇に植えられた花はその言葉のとおりに美しく咲き
誇っている。
「ああ、見事な花ですね……」
「ありがとうございます、ルヴァ様。」
嬉しそうに笑顔を見せるマルセル。だが、ルヴァの様子がおかしいことに気づく。どこか、
翳りがあるのだ。
「あの…どうかされたんですか?」
「え…何でもありませんよ。あぁ、そうですねぇ、昨日、面白い本が手に入りましてねぇ。つい
つい夢中になってしまって……。思わず徹夜を…ねぇ……」
「そうなんですか?」
首を傾げながら、マルセルはルヴァをチラリと見る。そして、努めて明るく振舞おうとする。
自分はルヴァよりはるかに子供であるから、多分、力になれないこともわかるから。だから…
自分にできることをしようと思う。
「ルヴァ様。よろしければ、これ、どうぞ」
そう言って、マルセルはルヴァにバラの花を一輪渡すと、ルヴァは穏やかに微笑んで、受け
取る。
「ありがとう……。気を使わせてしまいましたね……」
バラを受け取ると、ルヴァはその場を立ち去ってゆく。
「ルヴァ様……。」
見送るしかできないマルセルはやはり、自分が子供だと言うことを思い知らされてしまう。
そんな彼の肩に舞い降りてくる鳥。
「チュピ。ぼく、もっと、しっかりしなきゃね。」
そう自分の一番の親友に離しかけると、マルセルは花壇の手入れを始めるのであった。
その頃、ルヴァはルヴァで森の湖へ向かっていた。ここは静かで読書にもうってつけの場所
なのだ。
「良かった…誰もいないようですね……。」
軽くのぞいてみて、ほっとする。なぜだかこの森の湖を訪れるカップルが多い。邪魔をしては
いけないと…気を使っているのだ。
「ルヴァ…か……?」
「え……?」
声をかけられて、ルヴァは周囲を見回す。すると、クラヴィスの姿。木陰にいたので、気づか
なかったようだ。
「ああ…すみません。お休みのようでしたら、邪魔をしてしまったみたいですねぇ……」
本当に申し訳なさそうに言うルヴァにクラヴィスはわずかに表情を緩ませる。
「いや……。今日は気分がいいので…ここにいただけだ……」
「そうですか……。そういえば、クラヴィス。今日はお散歩ですかー?」
滅多に外に出ようとしないこの人を連れ出すのは至難の業である。その芸当を難なくこなして
いるように見えるのは守護聖ではルヴァとリュミエールだけとはもっぱらの噂。
「私とて、たまには…外に出ることもある……」
ぽつりと、言葉少ないクラヴィス。他人に必要以上の興味も接触もしない彼は一部の人間から
見れば、近寄りがたい存在である。だが…それだけの人間でないことはルヴァもリュミエールも
知っている。
「今日も天気が良くて…穏やかですからねぇ……。あなたがこうして外に出てくる気になるのも
わかりますよ。あとでマルセルの花壇を見に行ってみたらどうですか? 綺麗な花がたくさん咲
いてますし。ほら、この花もマルセルにもらったんですよ。」
そう言って、クラヴィスに花を見せるルヴァ。
「相変わらず…だな……ルヴァ」
「何がですか?」
「地の守護聖としてもたらすのは…知恵だけではない…ということだ……」
「?」
首を傾げるルヴァにクラヴィスはわずかに表情を緩ませる。このどこか、のんびりとした地の
守護聖様は、大地の暖かさとリュミエールとは違う意味での優しさを持っている。本人がそれに
気づいてないと言うところが、ルヴァらしいのだが。
「ルヴァ……。開けぬ夜がないように…果てのない迷路などない……。扉はいずれ開く……」
「クラヴィス……?」
「いずれ…時が来る。その時に大切なものを選べばいいだけだ……」
そう告げると、クラヴィスは静かに去ってゆく。ルヴァはその言葉の意味の真意を図りかねて、
その場に立ち尽くしている。
「私も…人が良い……」
苦笑交じりに呟いて、クラヴィスは思い出す。水晶球に映し出された光景を。すべてが始まり
出す瞬間。すべてはそこから始まる。今はまだ誰も知ることはないのだろうけれど……。
それからしばらくして、女王試験の開始が女王補佐官であるディアから告げられた。選ばれた
のは二人の少女。そして、その少女たちは新しい風をつれてこようとしていた……。
このシーンは「クラヴィス様美味しすぎる…」という声があったなぁ。いや、実際、美味しいけどね。この人。
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