「そこで夢が終わってしまったんですよ……」
 そう言って、リュミエールがいれたハーブティーを飲むルヴァ。ハーブの心地よい香りは穏
やかな午後にふさわしい。
「あなたが言ったいい夢って言うのは…このことなんでしょうかね?」
 押し花にした、オリヴィエが渡した花を取り出すルヴァ。
「いい夢だったんなら…そうかも知れないね。でも、どんな子だったのかは覚えてないの?」
「ええ。逆光に遮られてて。でも…なんだかすごく懐かしくて、優しい思いだけは残ってるん
ですよ。変ですよねぇ、会ったこともない方なのに……。」
 そんなルヴァの表情を見て、オリヴィエは満足そうに微笑む。
「不思議ですね。花がそんなふうに効果をもたらすなんて……。」
 リュミエールは不思議そうにその花を見る。
「でも…花はその存在だけで心を和ませてしまいますからねー、まだまだ、私たちの知らない
効果があるかも知れませんね……。」
 そういうと、ルヴァは席を立つ。
「ルヴァ様……。戻られるんですか?」
「あー、リュミエール、すみません、あまり長居できなくて。ジュリアスに呼ばれていまして」
 苦笑交じりのルヴァの言葉にオリヴィエは一つの事項を思い当てる。
「ゼフェルのとばっちりでしょ? まったく、ジュリアスのお説教好きにはまいっちゃうよね。
あんたも、大変だね」
「そんなことはありませんよ……」
 穏やかに答えて、ルヴァは去って行く。その後ろ姿を見送るオリヴィエにリュミエールは二
杯目のハーブティーを入れてやる。
「ところで…オリヴィエ。あなたは何を目論んでいるんですか?」
 その言葉にオリヴィエは苦笑する。一見穏やかなこの水の守護聖様は時折、鋭いことを平気で
言ってくれる。
「目論むだなんて…失礼な。ま、あんたになら、教えてもいいか。けどね、間違っても、お子様
たちには言わないでよ。面白がるに決まってるから」
「面白がるって…何がですか?」
 突然のボーイソプラノにオリヴィエはとっさに後ろを振り返る。…と、そこには緑の守護聖、
マルセルの姿。両手に香りのいい花を抱えている。
「何だ…あんたか……。ま、あの花はあんたから調達したし……。しょうがない、あんたにも
教えてあげる。」
「何をですか?」
 オリヴィエの言葉にマルセルは首を傾げる。オリヴィエはクスクスと笑って、ルヴァの夢の
話をする。そして、その夢をもたらせたのはマルセルからオリヴィエがもらった花ということも。
「それで…その花がもたらす夢…とは?」
「マルセルにもらったの…弟切草なんだけどね。それを枕の下に忍ばせると…将来の結婚相手の
夢が見られるって話」
「へぇ…結婚相手ですか……」
「それはそれは素敵なことですね……」
 さらりといってのけたオリヴィエの言葉を二人はそのまま聞き流してしまいそうになる。が、
次の瞬間、二人して顔を見合わせて、
「えー、結婚相手?!」
「ルヴァ様に…ですか?」
と、驚くしかない。なんせ本とお茶をこよなく愛する、ほのぼのした…悪く言えば天然ボケの
きらいがあるあのルヴァ…である。何となく、考えにくい。
「そういう言い伝えがあるんだ。ルヴァは良い奴なんだけど…それに気づいてくれる子がいるの
かなって思っちゃったわけ。なんせ、本さえあれば幸せな人でしょうが……」
 クスクス笑いながらのオリヴィエの言葉にリュミエールも頷く。
「そうですね。顔も覚えていないところがあの方らしい……。けれど…きっと素敵な方でしょう
ね……」
「僕もそう思います。僕も会ってみたいな……。どんな人だろう」
 わくわくした表情のマルセルの唇にオリヴィエは人差指を当てる。
「こらこら。本人すらまだ会っていないってのに。言っとくけど、他の奴に…特に他のお子様
たちに入っちゃ駄目だよ。リュミエールもね。ここでの秘密だから。」
「確かに…面白がる人もいるでしょうし………。」
「わかりました、オリヴィエ様。」
 二人の言葉にオリヴィエは満足げに頷く。
「ね、リュミエール。マルセルにもハーブティー、入れてあげてよ。何とな、乾杯したい気分に
なってきたから…さ」
「ルヴァ様に…ですね。わかりました」
 リュミエールも穏やかに微笑んで、マルセルのカップを取り出して、ハーブティーを入れて
やる。マルセルは両手に抱えていた花をリュミエールに花瓶を借りて、活ける。ハーブティーの
香りとあいまって、いい香りが漂う。
「じゃ…さ。お茶で乾杯ってことで」
 オリヴィエの言葉に頷く二人。そんなふうに穏やかな午後の一時がすぎて行く……。

弟切草にはそういう効果があるんですって。昔、花言葉の本で読んだのです。

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