フワリ…と羽根のように下りてきた口づけは顔中に散らさせて、最後に唇にたどり着く。何度も何度もそれは繰り返されて。
「ん……」
優しい感覚に身を任せるアンジェリークの様子に気づき、アリオスはその身体を不意に抱き上げてしまう。
「きゃっっ」
いきなり抱き上げられた驚きでアリオスの首に抱きついてしまう。視点が高くなったために、アリオスの視点により近づいて。
心臓がより一層高鳴る。
「どうした?」
揶揄するように笑うその顔がなんだか悔しくて。ぷい…と顔を背けようとするのだけれど。背けた途端、耳元に口づけられて。
「や…ん!」
真赤な顔。潤んだ瞳。そんな表情は青年を楽しませることはあっても、その手を休ませる言い訳になりはしない。
「……可愛いな、おまえ」
「何よ…今頃気づいたの?」
翻弄されてばかりは悔しいから。せめてもの憎まれ口。それが判っているから、アリオスもニヤニヤと笑っている。
「ああ…こんなに奇麗になったなんてな……。毎日、見ていたはずなのにな……」
蕾が花開くように、いつしか子供だった女の子は、可愛いから奇麗になりゆく少女になって。けれど、変わらず自分の傍に
居る。
「……馬鹿」
「ああ、俺は馬鹿だからな。だから…これから、確認させてもらうさ」
「あ……」
抱き上げられたままの体勢で、浴室を出てゆく。そのことでこれから起こることを思い出し、アンジェリークは俯いてしまう。
そんな少女の初々しい様子に気づきながらも、何も言わずにアリオスは自分の部屋に向かった。
未だ、停電中の部屋には光源などないけれど。自分の部屋であり、闇に慣れた目であるので、迷わずにベッドに進んでゆく。
ドサッ! ベッドに下ろされる。戸惑った瞳でアンジェリークはアリオスを見上げてくる。
「なんて顔してる……」
アリオスが笑いながら、のぞき込んでくる。両手はアンジェリークの脇に置かれていて、閉じ込めるような態勢。
「……どんな顔したらいいの?」
何もかもが初めてだから。不安で堪らなくて。だが、それをもたらすのは紛れもなく、大切な人だから。信じられる人だから。
逃げ出そうとは思えない。
「……そうだな」
そっと頬に触れる指先はとても優しくて。頬から、唇を、ツ…となぞってゆく。
「あ……」
「まずはキスからだな。目、閉じてろ」
「ん……」
言われるままに瞳を閉じると、柔らかな唇の感触。触れるだけの優しいそれは少女から、余分な緊張をとるためのもの。
「あ……」
優しいキスに気をとられている隙に、アリオスの手が胸元に伸びる。
「えっっ?!」
大きな手の平が柔らかな膨らみを包み込むのを感じて、焦ったようにアンジェリークは身を強ばらせる。だが、アリオスはその
まま手の平を動かしてゆく。力を込めれば、その力のままに形を変えてゆく。
「やぁ……」
自分の中から生まれてくる、未知の感覚にアンジェリークは首を振る。アリオスは唇を重ねることでそれを抑える。
「ん…ぅ……」
重ねるだけのそれはいつしか深くなって。自分の口内を思いのままに動くアリオスの舌に、アンジェリークは苦しげに眉を顰ま
せる。その間も、アリオスの手は変わらずアンジェリークの胸にあって。柔らかな感触を楽しむかのように、形を変えたり、胸の
頂を指先でからかったり。
「……アリオス!」
苦しげにアリオスの名を呼ぶアンジェリーク。知らない感覚に身を任せるのが怖くて。確かな存在を掴みたくて。
「大丈夫だ……。俺に任せろ」
そう耳元で囁いて。そのまま、耳朶を甘噛みしだり、舌を這わせる。耳元で直接聞こえてくるその音にも追いつめられる。
「や…怖い……」
自分が自分でなくなる。そんな未知の感覚。
「何が?」
「変なの……。身体が熱くて…なのに、ゾクゾクして……。私が、私じゃなくなってく……」
「馬鹿……。それでいいんだよ……」
自分の与える感覚に溺れている少女に満足げに笑うと、アリオスは上着を脱ぎ捨てる。そして、アンジェリークの手を取って、
自分の左胸に当てさせる。
「アリオス?」
「おまえが可愛いこと言うから…ほら、いつもより鼓動が早くなってる。おまえと一緒だ……。おまえのそんな顔、そんな言葉に俺
だって、ゾクゾクさせられてんだぜ」
そう言うと、アリオスはアンジェリークの体を起こして、直接左胸にアンジェリークの耳を当てさせる。
トクン…トクン……。いつもより早い鼓動。確かな生命のリズム。それはアンジェリークの緊張を解くのに十分すぎて。
「続けてもいいか?」
「……ん」
恥ずかしげにアリオスの胸に顔を伏せたまま、頷くアンジェリーク。
「サンキュ……」
俯いた少女の顎を持ち上げ、感謝のキスが贈られる。からかうように舌先が唇の端をつつけば、わずかに開かれる唇に、滑り
込むように入り込んでくる。応える術をまだ知らない少女はされるままだけれども、青年にはそれだけで十分で。
「あ……」
濡れた舌先が肌を這ってゆく。胸の一点に留まり、からかうようにつつかれる。転がされる。もう片方はアリオスの手に包まれ、
指先で遊ばれて。
「ふっ…ぁ……」
フワフワとして、それでいて、ゾクゾクとする、相反した感覚。外はまだ雨が降っている。激しい雨。時折、窓の外が光り、激しい
轟音が聞こえているのは気のせいか。だが、そんなことはもう意識の外。アリオスのくれる感覚に溺れていて。何も考えられない。
身体中に散らされた、紅の花。それは所有印。闇の中でも存在を確かに表わす、白い肌にそれはよく映えていて。だからこそ、
より一層触れずにはいられない。
くちゅ…濡れた音。その音がもたらす感覚にアンジェリークは身をすくませる。
「いやっっ!」
自分でも触れたことのない場所にアリオスの指を感じ、アンジェリークは足を閉じようとするが、すでに足の間にはアリオスの
身体が入り込んでいて、叶うはずもなく。
「や…だ……。ヘンになる……」
「馬鹿…変じゃねぇよ……」
宥めるような口づけが落とされる。だが、少女の瞳には羞恥と見知らぬ感覚への恐怖から、次々と涙がこぼれ落ちる。
「あ…ふぅ……」
息ができない。呼吸の仕方を忘れてしまったのように喘いでいる。それはさながら、陸に上がった魚のよう。初めての感覚に
溺れる人魚姫…と言ったところか。
「おまえの身体が…俺を受けとめようとしてるんだよ……。俺と一つになるためにな……」
「アリオス…と?」
「ああ……」
少女が自分を受け入れられるように…と言うより、自分のもたらす感覚に溺れる様子を見たくて、少女の熱を煽ってゆく。自分の、
自分だけの色に染まってゆく。それは思っていた以上に彼の独占欲を満足させる。
「あ…あぁ……!」
より一層、身を跳ねる少女。未知の感覚に染まった瞳は潤んでいて。しどけない肢体はそれだけで青年を煽るもの。
「アンジェ……」
テノールの声が耳から入り込んでくる。それはどこか甘くて、切ない何かを少女の中に生み出させる。
「悪いな、辛い思いをさせる……」
「……?」
その意味を少女が理解する前に、力が抜け切った足を開かされて。青年が覆い被さってくる。
「や…ぁ……」
自分の中に入り込んでくるもの。無意識に逃げようとするが、アリオスに押さえられていて、それはかなわなくて。
「っ……」
痛みに涙が零れ、強ばる身体。
「力…抜け……」
「や…わからない……」
呼吸が落ち着くまで…何度も、口づけて。宥めるように全身に触れてゆく指先。
「あ……?」
不意にアンジェリークが戸惑ったような顔を見せる。痛みの中に…確かに感じる別の感覚。
「…ふ…ぁ……」
アンジェリークの変化に気づき、アリオスは微笑する。そして、動き出す。あくまでも、アンジェリークのペースに合わせながら。
「…な…んか…ヘン……」
痛いはずなのに、ゾクゾクして。自分が違う人間になりそうな不安。
「大丈夫だ……。俺がいる……」
耳元で囁くアリオスのの息もわずかに上がっている。だが、アンジェリークにそんなことを気づく余裕もあるはずがなく。すがり
つくものが欲しくて、アリオスの背中に腕を回す。
「アリオス……」
熱い…その感覚だけがすべてで。それに全てをとらわれていて。目の前にあるアリオスの存在も幻のよう。
「アンジェ……」
時折、与えられるキスだけがわずかに現実に引き戻す。
「あぁ…っっ……!」
意識が高揚する。まるで…心と身体がバラバラになるようなそんな感覚。どこまでも昇りつめて…その先には果てがないようで
……。未知の感覚。
「ア…リ…オス……!」
必死で名前を呼ぶ。こうでもしないと、どこかに心が飛んでいきそうで。こんなに傍に居るのに……。
「はぁ…ッ、あ……!」
頭の奥で何かが弾ける。ハレーションのように。そして…心が飛翔する。何もかもが夢のように……。
「アンジェ……」
どこか遠くでアリオスの声を聞きながら、アンジェリークの意識はゆっくりと沈んでいった……。
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