煙草の煙の匂いがする…その感覚に、ぼんやりとアンジェリークの意識が浮上する。ゆっくりと目を開けると、自分の部屋では
ないけれど、見慣れた天井。
「っ……」
身体の奥が痛い。今の自分の状況に気づき、記憶を巡らせる。そして……。
「アンジェ?」
優しく響くテノール。それにすべての記憶を瞬時に蘇られされて、アンジェリークは全身を真っ赤にさせる。
「なんて顔してる……」
ククク…と楽しそうにアリオスが笑う。それがさらにアンジェリークの羞恥を煽る。
「だ、だって……」
俯いてしまった少女の頭を優しく撫でてやる。何もかも初めての少女なのだ。無理をさせたと自覚はしているのだ。その仕種に
アンジェリークは蚊の泣くような声で告げた。
「私…ヘンだったんだもん……」
「……」
一瞬の沈黙の後、アリオスはぷっと噴き出してしまう。
「なんで笑うの〜」
勇気を出して言った一言を笑われて、責めるようにアンジェリークがアリオスを見つめる。
「変ってな……。あれでいいんだよ」
「で、でも……」
「じゃあ…おまえを変にさせた俺はもっと変か?」
「……ヘンじゃない」
むしろ、ドキドキした。いつものアリオスとは違った表情。熱さ。自分を欲してくれていると言うことへの喜びと誇り。
「じゃあ…おまえは変じゃねぇよ。キレイだったぜ?」
「……!」
恥ずかしいことをさらっと言われ、反応を返せない。そんなアンジェリークをアリオスは優しく抱き寄せる。
「ずっと…抱きしめてやるよ……。どんな夜も、一人にさせない……」
「アリオス……」
「怖くなかっただろ?」
アリオスの言葉が意味するもの。
「うん…アリオスがいたから……」
一人であれほど怯えていたのが嘘のように、雷のことが気にならなかった。傍に居てくれる…その確かな存在だけがすべてで。
「アンジェ……」
フワリ…と、優しい口づけが降ってくる。何よりも暖かいそれにうっとりと身を任せる。
「アリオス…大好き……」
そう呟いたアンジェリークの唇をアリオスはそっと指先でなぞる。
「バーカ。こういう時のセリフはこう言うんだよ」
アンジェリークの耳元に唇を寄せて。
「愛している……ってな」
吐息ごと入り込んでくる声に、アンジェリークは背中に何かが走るのを感じる。先程までの熱い時間を脳裏に蘇らせるには十分
すぎるほど。
「なんて顔してる……。誘ってんのかよ」
「ち、違う……!」
真っ赤な顔で否定しても、アリオスの腕はすでに少女を閉じ込めていて。身じろぎすらもできない。
「本当に嫌か?」
のぞき込んでくる瞳はあまりにも真摯で…熱く狂おしくて。背けることもできなくて。
「……嫌じゃない」
精一杯の勇気で応える。愛されているから、求められるとわかっている。嫌なはずがない。ただ、自分が自分でなくなることが
怖いだけ。けれど…それがアリオスのもたらすものだと判っているから。
「愛してる……」
「私も…愛してる……」
再び蘇る熱い時間。窓の外の雨はいつしか、弱くなっており、夜明け前には止むだろう。けれど…今の二人にはそれすら、どう
でもいいこと。
二人の夜はまだ…終わることがない……。
二人の初めての夜…です。いえ、エピローグを読まれた方で、鋭いツッコミを下さった方がいらして……。そう、あのエピローグの前に、
このエピソードがあったんです。