| ドームに集ってゆく人たち。誰もが、期待を込めたまなざしをしている。口に上るのはこのドームで歌う歌姫の 話だ。 『楽しみね、アンジェのコンサート』 『うん。久々のドームだしね』 『でも、ライブハウスの小さなライブも楽しかったよね』 『ジャズピアニストとの競演もよかったよ〜』 『うん。いろんなジャンルやいろんな音楽でのアンジェの歌が楽しめたよね〜』 口々にファンたちは口にする。自分の歌を聴いてくれる人に届けたいと願い続けたアンジェリークの歌は確実に 受け取ってもらえていた。 アンジェリークとレヴィアスが出会ってからの二度目の春が過ぎた。以前の所属事務所を出て、レヴィアスの バックアップの元で活動を続けていた。もっとも、レヴィアスは表立っては姿を現さない。ただ、前の所属事務所の 圧力やアンジェリークの足を引っ張ろうとする者たちからアンジェリークを守ってきていた。アンジェリーク自身は TVでの活動がメインだった以前の事務所の頃とは違い、小さなライブハウスでの活動をメインにしていた。時には 様々な楽器の演奏者のとの競演を試みたりもした。 レヴィアスが守ってくれているといっても、心無い言葉を投げかけられたり、冷ややかな視線を向けられたりも した。だが、アンジェリークは負けなかった。歌うことが好き、ただそれだけの想いで自分を支えて。そして、それを 見守ってくれる人がいるから。 (今日も精一杯歌うだけだ……) ドームの最上階の部屋で、アンジェリークは集まってくる観客たちを見つめる。自分の歌を受け取ってくれる人 たち。精一杯の歌声を届けるつもりだ。 「どうだ、アンジェリーク?」 「レヴィアス、来てくれたの?」 大きなバラの花束を持って現れたレヴィアスにアンジェリークは驚きを隠せなかった。最近、レヴィアスは体調が 優れず、ずっと会えないままだったのだ。 「お前の晴れ舞台だ。我が来なくてどうする」 「カインさんに叱られても知らないから」 そう言いながら、受け取ったバラの花束をうれしそうに受け取る。どんな会場でもアンジェリークが歌うときには 腕いっぱいの花束を届けてくれる。それが二人の間での変わらない約束だ。 「どうだ、久々のドームだが、気分は?」 「気分? 最高だわ、もちろん」 瞳を輝かせ、アンジェリークはレヴィアスを見上げる。ずっと見守ってくれた人。アンジェリークを自分の夢だと いってくれた人。そして、その言葉がアンジェリークにとっての大切な夢にもなった。 「レヴィアスがずっと見ていてくれたから、あたし頑張れた。自分を誇りに思っている」 照れくさくて、なかなか言えなかったけれど。今日は特別な日だから。 やがて、コンサートの時間がやってくる。 「レヴィアス、そろそろ席に行かなきゃ」 「いや、我はここでお前の歌を聞いていたい……」 一番いい席を用意しているのに…とアンジェリークは笑った。 「じゃあ、ここで見ていてね」 やがて、開幕を伝えるブザーが鳴る。幕が上がり始める。 「じゃあ、行って来るね!」 軽やかにスポットライトにアンジェリークは消えてゆく。そして、歌う。大好きな歌を。誰よりも大切な人に届ける ために……。 最後の命の炎を燃やして静かに去ってゆく人が満足そうに永遠の眠りについたことも知らないままに……。 |
少し時間が過ぎました。アンジェリークが自分の夢をもう一度その手にしました。大切な夢を……。