「じゃあ、あたしにその時間をちょうだい! 最後まで、夢を見てよ!」
「アンジェリーク……」
「そのためになら、あたし、歌えるから……。たくさんの人じゃなくて、レヴィアスに聞いてもらいたいから……」
 多くの人に自分の歌声を届けたかった。それはアンジェリークの夢だった。けれど、今はたった一人の人の
ためだけに歌いたい。前に進む道を、夢を与えてくれたこの目の前の人のために……。
「歌うよ、あたし……。言い訳なんかしない。たくさんの人に聞いてもらいたかった歌を、今はレヴィアスのために
歌いたい……。レヴィアスに夢を見てもらうために歌うから……」
「我はいずれ、お前の前から消えてしまうのだぞ? お前の心の負担になる……」
 レヴィアスの言葉にアンジェリークは首を振る。
「レヴィアスがあたしにたくさんのものをくれたのよ? 歌うことをあきらめなかったのも、逃げなかったのも、
レヴィアスが道を示してくれたからだわ。だから、あたしが今度はレヴィアスのために歌うの。レヴィアスに
夢を見せてあげる。だから、レヴィアスの時間をあたしにちょうだい? 最後まで、あたしを見ていて。あたしが
ちゃんとやっていく姿を見届けて……」
 まっすぐな瞳でレヴィアスを見つめるアンジェリーク。もう、その瞳には迷いはなかった。
「お前はそれで良いのか……?」
「良いよ。レヴィアスのことが好きだもの、あたし……」
 決して、叶うことのない想いだ。それでも、アンジェリークは満足だった。それはひどく悲しいけれど、納得が
出来る気がした。
「我に夢を見せるということは今まで以上のレベルでなければ、ならぬぞ? その覚悟はあるのか?」
「なきゃ言わないわよ」
 レヴィアスの言葉をアンジェリークは泣き笑いの表情で切り返す。
「あたしは“アンジェリーク・コレット”よ。本気になれば、レヴィアスを魅了する歌ぐらい、いくらだって歌えるよ。
知ってるでしょう?」
「ああ。そうだな。我はお前のその歌声とまなざしに魅入られたのだからな……」
「初めて、聞いた、それ……」
「今までなんだと思っていたのだ?」
「お金持ちの気まぐれだと……。ううん、でも、今はどうでも良いわ。ちゃんと見ていなさいよ。すこしでも、目を
そらしたら、許さないんだから」
 小生意気な言葉だと思う。けれど、こういう自分をレヴィアスが気に入ってくれていることをアンジェリークは
知っているから。まっすぐに進む自分を見守ってほしいから。

「ああ、我に盛大な夢を見せてくれ……」
「うん。あたし、ちゃんと歌い続けるから……」
 恋のようには甘くはないけれど、確かな絆が二人の間に気づかれていた。それをアンジェリークはひどく満足に
思う。自分が誰かの夢になる、しかも、一番大好きな人の夢に。それはひどく、誇らしいことだった。


このシーンはやっぱり難しかったです。悲恋ではないんですよ。ハッピーエンドでもないけれど。…あと少しで終わります。


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