「じゃあ、どうして、あたしになんか、かまったりしたの? 死ぬ前の退屈しのぎ?」
 自分でもずいぶんな言い草だと思う。けれど、時間のないはずのレヴィアスがなぜ、自分のような存在に
かまったりするのか。それが不思議で仕方がなかった。そんなアンジェリークに、レヴィアスは静かに答えた。
「…最初はそうだったかも知れぬ。お前は昔の我に似ていた。がむしゃらで、目の前の壁を乗り越えることに
精一杯足掻いて……。忘れていたあの頃の我の姿をお前を通して見ているような気になった…

…」
「あたしが昔のレヴィアスに……?!」
 目の前にいるのはアンジェリークよりも遥かに大人の男の人、だ。そんな彼が今の自分をかつての自身に
重ねているだなんて。こんなに子供で、それでも夢を追っていて。足掻いている自分を、だ。
「今の地位を手に入れたら、退屈な日常だけが残った。事業を大きくして、財閥自体を大きくしても、かつての
我のような存在が対等な相手にもいない。みんな、我の権力の前に跪く。新しい事業を起こし、切り開いて
ゆくのはそれなりには楽しかった。だが、それもまた虚しくなる。そんな毎日の中で、この病が我の体を蝕んだ
……」
「……」
「原因も不明であれば、治療法も不明。我は死ぬまでの時間を過ごすことになった。医師の指示通りに養生
すれば、命を多少は永らえさせることもできる。けれども、そこまでしては生きることに執着もしていない。ただ
死ぬことだけを待つ毎日だった。お前に会うまでは……」
「あたしに?」
 きょとんとした顔で問い返すアンジェリークにレヴィアスは静かに頷く。
「傷つきながらも、自分の夢を見て、まっすぐに進もうとしているお前は我にはまぶしかった。そして、うらやましくも
あった。お前を見ていて、昔の自分を思い出したといったほうがよいのかも知れぬ……」
「あたしを見て……?」
「ああ。お前を見ることで、我はもう一度夢を見ることができたのかもしれぬ。忘れていたはずの夢を……。もう、
過ぎてしまった時を……。お前が我の夢になったのだ」
「あたしが、レヴィアスの夢に……?」
 その言葉はストン、とアンジェリークの中に落ちてきた。がむしゃらに進むしかできなかった。そんな自分を見
守ってくれた人。この人に出会わなければ、きっと今ここにこうして歌うことを好きなままでいられる自分ではいられ
なかった。そんな人に自分は何ができたのだろう。歌うことしかできないのに。
「あたしはレヴィアスにしてもらってばかりなのに?」
「お前に出会えたことで我は最後の夢を見られた。それが我には最高の贈り物だ……」
「……じゃあ」
 涙が零れ落ちる。歌よりもこの人を選ぼうとした時に見せたその表情が切なく映ったのはそのせいだったのだ。
アンジェリークが歌を夢だといったその言葉を、姿をかつての自分に重ねていた彼が自分のために夢を捨てる
ことがどれだけおろかに映るのかを。
「じゃあ、レヴィアス……」
 自分にできることは一つしかない、そう思ったアンジェリークは意を決して唇を開いた。

レヴィアスの本心が語られました。アンジェリークの決心が示される時です。


‖<TOP>‖ <25> ‖ <27> ||