| 「我を……?」 アンジェリークの言葉にレヴィアスは戸惑いを見せる。当然のことだとアンジェリークは思った。年齢も立場も 遥かに違う。分不相応な想いだ。冷静に考えていれば、こんな言葉を言えるはずもない。 「アンジェリーク。それはただの気の迷いに過ぎぬ。おまえにはなしとけたい夢があるのだろう?」 諭すようなその言葉にアンジェリークは首を振った。相手にされないことはわかっている。けれど、この想いは 真実で。それを否定されたくはなかった。 「気の迷いなんかじゃない! あたし、本当にレヴィアスのこと……」 冗談なんかじゃなくて。本気の気持ちだ。 「だから、あたしはレヴィアスにはそういうことしたくないの! レヴィアスを利用するくらいなら、あたしは歌を 捨ててもいいの!」 プツリ、と着ている服のボタンを外そうとするアンジェリークの手をレヴィアスはそっと捕らえた。 「止せ……」 「ごめん、迷惑だったよね……? あたしの気持ちを押し付けて……」 子供のわがままの押し付けだ。情けなくて、涙が出てくる。そんなアンジェリークに対し、レヴィアスは静かに 首を振った。 「……お前の気持ちは忘れた方がいい。われはそれに答えることはできぬ……」 「わかってるわよ! でも、片思いでいい! それも駄目なの?」 アンジェリークの言葉にレヴィアスは首を振った。 「我はお前には答えられぬ。我には時間がない」 「レヴィアス?」 「お前には未来がある。その強い瞳でまっすぐ進むであろう未来が……」 そっと頬を包み込むレヴィアスの大きな手。金と緑の瞳が柔らかくて、優しい悲しみが溢れている。 「レヴィアスは違うの?」 「……我はやがて死ぬ。残された時間はもうない」 「嘘……」 レヴィアスの突然の言葉にアンジェリークは呆然とする。目の前のレヴィアスはそんな風には見えなくて。 けれど……。 「信じられるのなら、診断書を見せてやろう。お前が信じられるように、な……」 そう言って、レヴィアスが机から取り出したのはドイツ語で書かれているカルテ。 「あたし、読めないわよ……」 「何なら、読んでやろうか?」 「嫌、やめて!」 聞きたくなかった。聞いてしまえば、それが現実になってしまうような気がして。いや、もうそれは現実なのだ。 「よく考えてみろ。我はアルヴィース財閥の総帥だ。その我がこうして屋敷にこもってばかりなのはどうして なのか。本来なら、トップである我が表舞台で指揮を取るべきなのだ」 「……」 「我が表舞台に立たぬことを我の業務上の計画だと思ってる輩もいるだろう。院政だと思わせている部分もある。 我の部下たちは優秀だ。我がいなくても、我以上の働きをしてくれている。我が死んだ後も、部下たちに任せて あるから、我はいつだって死ねる」 レヴィアスの言葉をアンジェリークは無言で聞いている。なんて言ったらいいのだろうか。言葉が続かない。 淡々と語られるからこそ、真実味を帯びてくる言葉がとても重かった。アンジェリークがあがいている間にもレヴィ アスは自分の命が終わる瞬間を待っている。なんて愚かだったんだろう。自分のことに精一杯で、レヴィアスが 背負うものを見たことがなかった見ようともしなかった。 |
…もう少しだけお付き合いくださいませ。