| いつものようにレヴィアスの部屋に案内されると、アンジェリークは意を決した顔になった。 (歌よりも、ずっと大切なものがある……。歌えなくなるよりも、それを失うことの方が嫌……) 歌い手としての場所を失ったからと言って、歌えなくなるわけではない。歌おうと思えば、どこでだって 歌える。華やかなステージだけが歌う場所ではない。自分の歌声が誰かの耳に届くのなら、それは立派 なステージだ。ただそれだけのことに気付かなかっただけで、失うものなんて本当は何もなかったのだ。 「どうした? 随分と眉間に皺が寄っている。それに疲れているようだな……」 優しい言葉、だ。すがりつきたくなる。けれど、レヴィアスには甘えない。彼に向かい合える人間でいたい から。 「社長から、何か連絡があったんじゃない?」 「…ああ」 微妙なニュアンス、だ。けれど、そういう連絡はしてあるのだろう。アンジェリークが今この場にいる理由に 気付いている。それだけでも、ひどく恥ずかしい気がした。 「…レヴィアスと寝ろって言われたわ。誘惑しろって……」 「そうか……」 「ごめんなさい、レヴィアスにも迷惑な話だよね……」 言っていて、涙がこぼれそうになる。涙なんか見せたことはなかった。それは最後の砦だ。プライドにかけて、 それだけは守っていたことだ。 「我に体を差し出さずとも、お前が願うことは出来る限りは叶えられる。金で解決できることなら、あらかたは 済む話だ」 その言葉にアンジェリークは激しく首を振った。金銭がどうこうと言う話ではない。アンジェリークの心がそれを 許さない。 「嫌よ! レヴィアスにはそんなことさせられない!」 「…我などにそうされると、迷惑、か?」 「そうじゃないわ! レヴィアスはあたしが知ってる大人とは全然違う! 話していて、すごくほっとしたり、楽し かったりするもの。だから、こんなことで軽蔑されたりしたくない……」 所詮は小娘の戯言だと一蹴されるかもしれないけれど、これだけはちゃんと伝えたかった。芸能界で歌手と して生きていけなくなるよりも、たった一人の人に軽蔑されることの方がずっと怖い。 「利用できるものは何だって利用しろと言ったのは我だ。我は利用されたとして、お前を軽蔑はするまい」 「レヴィアスがよくても、あたしは嫌なんだ!」 目の前の人は今の自分よりずっと大人の人だ。色々な駆け引きを乗り越えてきたのだろう。アンジェリークに 利用されることなんて、些細なことなのかもしれない。それでも、アンジェリークはレヴィアスを利用したいだなんて 思えない。 「歌うことが好きで、頑張ってきたのだろう?」 ひどく優しく響く声に涙がこぼれる。歌う場所を失うよりも、この人の前に堂々と立つことができない方がずっと 辛い。 「出来ないよ…だって、あたし……」 首を振って、言葉を紡ぎかけて、アンジェリークはハッと顔を上げた。 (あたし……?) 埋まらなかったピースがはまる瞬間。どうして、自分がここまでこだわるのか。 「アンジェリーク?」 「あたし、レヴィアスが好き……」 頬を伝う涙と共にその言葉がこぼれ落ちた。 |
あう……。が、がんばります。