だが、カインは一人ではなかった。白衣を着た医師と思しき人物と話しながらだ。
「…挨拶、しとかなきゃいけないかしら?」
 そう考えはしたけれど、自分のようなアイドルが大財閥の総裁の館に出入りしていることをむやみに外部の
人間に知られるわけにはいかないだろう。だが、レヴィアスの部屋に向かうには今、カインと医師が話している
廊下を通らねばならない。どうしたものか、と思案していると、向こうがこちらに気づいたようだ。
「アンジェリーク様……」
「あ、こんにちは。コンサートツアーが終わったので、挨拶に来ました」
 そう言って、アンジェリークは手にしていたお土産をカインにも渡した。見つかってしまったのなら、もう開き
直るしかない。
「ああ、わざわざ、すみません」
「じゃあ、あたし、行きますから」
 そういうと、アンジェリークはすたすたレヴィアスの部屋まで歩き出した。
「あ、お待ちください、アンジェリーク様!」
 咄嗟にカインがアンジェリークを止めに入った。
「な、何?」
「レヴィアス様は、今日はちょっと……」
「どうして? お仕事」
「い、いえ。そういうわけでは……」
 あいまいなカインの返答にアンジェリークは多少の苛立ちを感じた。
「何なのよ?」
「いえ……」
「じゃあ、いくわよ」
「あ、お待ちください!」 
 あわてて、カインが止めに入るが、止められても、アンジェリークは引く気はない。どうしても、話をつけ
なければ、ならないのだから。
「好きな時に会いに来ていいって、言ったのはレヴィアスよ。あなたはそれに逆らうわけ?」
「……!」
 カインが一瞬怯んだ隙にアンジェリークはレヴィアスの部屋に向かった。
「レヴィアス、いるんでしょ?!」
 パタン!と勢いよく扉を開けると、薬独特の臭いが鼻をついた。
(え……?)
 戸惑うアンジェリークに部屋の主であるレヴィアスは顔を向けた。
「アンジェリーク、どうした?」
「え、ああ。久しぶりだから戸惑っただけ」
「? おかしな奴だな」
「……」
 レヴィアスの顔色がかなり悪い。この薬の臭いと関係あるとでも言うのだろうか。
「アンジェ?」
 促されるように問掛けられて、アンジェリークは本来の用件を思い出した。
「レヴィアス、あたしは自分の実力で勝負したいって言ったわよね!」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、どうして、あたしに言い寄ってきたプロデューサーが飛ばされたり、レコーディングスタジオの
グレードが上がったりしてるのよ! あたしがグチった直後じゃない!」
「ああ、そうだったな」
「『そうだったな』じゃないわよ! プロデューサーの件は助かったけど、スタジオの件は余計よ!」
 一気に巻くしたてるアンジェリークにレヴィアスはきょとんとしている。
「余計な、ことか?」
「そうよ。あのね、あのスタジオは一流と呼ばれる人たちこそが使えるんだから。あたしが実力で使える
ようにならなきゃ意味ないじゃない。レヴィアス、言ったわよね。『利用できるものは利用しろ』って。でも、
それにはあたし地震の力がそれに見合うものじゃなかったら、意味がないじゃない」
「なるほど」
 ようやく、アンジェリークの言葉を理解してくれたらしいレヴィアスにアンジェリークはほっとためいきを
ついた。これで話が通じなかったら、どうしようかと思っていたのだ。
「あ、でもね。薔薇の花は嬉しかったの。あんなにたくさんはやりすぎだけど。今度からはあたしが両手で
抱えられるくらいの花束にしてね」
「善処しよう」
 レヴィアスの言葉にアンジェリークは嬉しそうに笑った。



えっと、これから、話が進むかと……


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