| プロデューサーの一件以降、社長は何も言ってこない。何かあったと踏んでいるのかもしれない。 (レヴィアスに迷惑になるようなことを言われたら嫌かも……) アンジェリークの懸念はそこだけだ。レヴィアスとは信頼関係を築いていると思う。だからこそ、彼を利用する ような真似はしたくなかった。それをもったいないと言うほうがおろかなように思えてくる。 「アンジェリーク。今度の曲のレコーディングのことだけどね……」 「はい」 考えることで思考はグルグルだけれども、今は仕事に全力投球、だ。 「あのね、今度のレコーディングスタジオはかなりの設備だよ」 「そうなの?」 マネージャーの言葉にアンジェリークは思わず身を乗り出してしまう。それなりの歌唱力で歌っていた頃はレコー ディングスタジオもそれなりのものでよかったけれど。本気を出して歌うことを認められるようになってからは多少の もどかしさと物足りなさを感じていた。 「いいものを作らないとな。作詞のほうも頑張れよ」 「はい」 少しずつ、作詞も手がけて。まだまだではあるけれど、曲も作り始めている。自分の力で勝負したい、そう思い 始めてから、世界は広がり続けている。 (…でも、何で急に? 社長がそこまで考えてくれてるとは思えないんだけど……) 思い当たる答えはただ一つだけれども。まさか、自分のためにそこまでしてくれるだなんて、想像もつかない。 相手は大財閥の総裁だ。こんな風に、たかが芸能人の小娘のために動いてくれること事体が信じられない。 けれど、アンジェリークの不確かな疑問はある日突然、確かな答えとなって帰ってきた。 「……これって?」 コンサート会場のロビーも楽屋にも。あふれんばかりの真紅の光景。無数の薔薇の花、だ。こんなことが出来る のはアンジェリークの知る人の中で、ただ一人。差出人を確認しなくてもわかる。 「すごいね……」 コンサートのスタッフたちもその光景に唖然としている。当然だろう。 「こんな薔薇、どうしろっていうのよ……」 確かに色は綺麗で香りはいいけれど。この量はかなりのもの、だ。しかも、ご丁寧に棘までとってある。かなりの 手間隙をかけられていると言うことであり、その分のお金もかけられていると言うことだ。 「ファンのみんなに少しずつおすそ分けするって言うのはどう? アンジェちゃんも持って帰れないでしょう?」 女性スタッフの提案に反対する声は上がらない。膨大な量を見れば、当然と言えば当然だ。 「こんな風に送ってくれるファンがいるって幸せね〜」 「限度ってものがあるけどね」 笑いながら言ってのけるスタッフたちにアンジェリークは何とも言えない気分になった。 (レヴィアスってば……) 今日から、コンサートツアーが始まると、数日前にあったときに報告した。一応、チケットも持っていったのだが、 仕事が忙しいことを理由に断られた。その代わりに一つの約束をしてくれた。 『その代わりに会場には薔薇を贈ろう』 『薔薇を?』 『ああ、お前には似合うだろう。屋敷中の薔薇を、な』 確かにそんな会話をしたが、まさかそれが実現するとは誰が思うだろう。苦笑しながらも、アンジェリークは一輪の 薔薇を手に取ると、そっとそれに口づけた。 |
レヴィアスはやっぱり何かが違ってるみたいです……。