堰を切ったようなアンジェリークの言葉が途切れると、レヴィアスは静かに問いかけた。
「ならば、辞めるか? 辞めてしまえが、そのような思いなどせずにすむ。決めるのはお前だ」
「……いや」
 問いかけに、アンジェリークはゆっくりと首を振った。
「やめない。やめたくない。あたしのファン…あたしの歌を聞いてくれる人が一人でもいるなら、その人にあたしの歌を
届けたい。何より、あたしはあたしに負けたくない……」
 それでもずっと走ってきた世界だ。今ここで逃げ出したら、今までのことが無駄になる。それは嫌だった。レヴィアスの
いうとおり、決めるのは自分だ。だから、簡単に投げ出したくなかった。
「ならば、その男を利用すればいい。相手を逆に利用してやれ」
「……!」
 その言葉にアンジェリークは一瞬、息を呑む。レヴィアスは真顔だ。冗談を言ってる顔ではない。
「何よ、それ。女の子に言う台詞じゃないわ……」
 一瞬、固まってしまったアンジェリークであったが、次の瞬間には笑い出してしまった。従順にという風には言われて
きたが、こんな風に言ってきたのはレヴィアスが初めてだ。そして、それがまた彼らしいと思ってしまった。
「だが、それが一番現実的だと思うが」
「それもそうね」
 ひとしきり笑うと、アンジェリークはレヴィアスに笑顔を向けた。その表情はいっそすがすがしい。
「本当はわかってるんだ。自分が決めたことなんだってね。でも、心は納得しなくって。レヴィアスみたいに言ってくれる
人が欲しかったんだ」
 欲しいのは下手な慰めや同情じゃない。現実を受け止めるしかないのなら、戦うための武器を与えてもらう方がずっと
いい。
「不思議だね、レヴィアスって。あたしの周囲の大人たちは、言うことを聞かせようとして、あたしの機嫌ばかりとってくる
のに。レヴィアスはそうじゃないの」
「……」
「それなのにね、あたしの一番欲しかった言葉をくれるんだもの」
「別にそのようなつもりはない……。我はそうやって生きてきた。ただ、それだけのことだ」
 レヴィアスの言葉にアンジェリークは大きく頷く。
「うん。わかってる。でもね、レヴィアスの言葉が一番あたしの力になる。だからこそ、言える言葉だと思うから」
 何事にも屈しない心を、自分が自分であることを守るための言葉。レヴィアスの言葉が導くものはそれだ。アンジェ
リークが一番手放してはいけないもの。
「ごめんね。わざわざ呼んでくれたのに、愚痴を聞かせちゃって……」
「いや、呼び出したのは我だ。かまわぬ……」
「でも、ありがとう。あたし、負けないから」
 負けないための力はもらったから。また、戦える。気力は充実して、ほら、笑って見せられる。
「これから、我に付き合え。愚痴を聞いてやったのだからな」
 そう言いながら、レヴィアスは内戦で何事かを命じる。しばらくして、琥珀色の液体の入った瓶と、淡いピンクの
液体が入った瓶、そしてグラスが運ばれてきた。
「それは口当たりがいいからな。帰りは遅らせるから、付き合ってもらうぞ」
「……あたしはいいけど。レヴィアス、病気なんじゃないの? この間、お医者さんが困った顔して出てきていたけど……」
 以前に遊びに行った時、困った顔の医者とすれ違ったことがある。状況から察するに追い出された様子。
「多少飲んだくらいではしにはしない……」
「そうかもしれないけどさぁ……」
 困ったように笑うアンジェリークにレヴィアスは曖昧な表情をして、グラスに琥珀を注ぐ。アンジェリークはまだその表情の
意味を知ることはなかった……。

この話も書きたかったんですね〜。で、同名のコピー本をお持ちの方はこの先の展開を知ってるでしょうけれど、アンジェの視点で
書いていきます。


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