身体のラインが一目でわかるタイトなワンピース。本当は苦手でたまらないけれども、履かないわけにはいかない
ピンヒール。深い真紅のストールはアンジェリークを歳より大人に見せる。
「やぁ、よく来てくれたね」
「お招き、ありがとうございます」
 社交辞令でも、笑顔を浮かべてしまう自分が浅ましい思う。雰囲気のいいイタリアンレストラン。相手が一緒にいて
楽しい相手なら、会話も弾むだろうが、目的がわかっているのだ。楽しめるはずがない。
「ここの食事は美味しいんだよ。君も気に入ると思うよ?」
「ありがとうございます」
 確かに前菜からして、とても美味しい。食事には罪がない。だから、食べるものはちゃんと食べようとは思う。当たり
障りのない会話をしながらの食事は気まずいながらも、料理がいいので、味わいは出来る。
「君と話していると、楽しいね。どう? この後も……。ちゃんと許可は得てるよ?」
 誰の、とは言わないところがいやらしい。どうせ、逆らえないことをわかっているのだ。
「部屋を取ってるしね。大丈夫。支配人とは懇意だから、君にも悪いようにはしない」
 よくもまぁ、そんなことを言えるものだ。だが、それを振り払えない自分が一番嫌いだ。それでも、しがみつきたいから、
選んだ道だからと納得しようとする自分がひどく愚かにも思えた。
「失礼いたします、お客様」
「ん、何だ、君は?」
 不意にボーイが二人のテーブルにやってくる。そして、男に何やらを囁くと男はすぐさまに顔色を変えた。
「……わ、悪い。僕は急用が出来てね。今日はこれで失礼するよ。君はデザートまで楽しめばいい。じゃ、じゃあね」
「……?」
 アンジェリークが首を傾げるまもなく、男はそのまま慌ててテーブルを立って、去っていった。
「何なのかしら……」
 とりあえずの危機は去ったことにアンジェリークは呆然とする。あの様子からすると、よほど緊迫めいたことなのだろう。
(とりあえず、もったいないからデザートまではもらおう……)
 しっかり、デザートまでをアンジェリークは味わった。気分が軽くなったこともあり、それはひどく美味しく感じられた。
「お客様。これをあちらのテーブルの方が……」
「え?」
 先ほどのボーイがグラスワインを持って、アンジェリークのテーブルにやってくる。ボーイが指し示した方向を見ると、
そこには見知った顔があった。
「ジョヴァンニさん?」
 目が合うと、ジョヴァンニはにっこりと笑顔で手を振ってくる。彼は一人でなく、数人でテーブルを囲んでいた。アンジェ
リークはすぐに礼を述べに行った。
「こんばんは。ジョヴァンニさん。ワイン、ありがとうございます」
「未成年だからって、怒られるかと思ったよ」
「まさか……」
 キャラキャラとアンジェリークは笑う。実は結構アルコールには強かったりもする。もちろん、知られることはないのだが。
「ジョヴァンニ。それがレヴィアス様の歌姫ですか?」
「え?」
 自分に向けられたジョヴァンニ以外のテーブルの人間の視線に気づき、アンジェリークはキョトンとする。
「あ、ごめんなさい。皆さん、お食事中なのに、話しかけて」
 申し訳なさそうに誤るアンジェリークにジョヴァンニはけらけらと笑った。
「気にしなくてもいいよ。ここにいる連中もレヴィアス様の部下だから」
「あ、でも。お食事の邪魔になりますし。私、失礼しますね」
 ぺこりと頭を下げると、アンジェリークはテーブルに戻った。食後のコーヒーを味わってから、テーブルを立った。帰りは
タクシーを呼んで帰ればいい。
「……ジョヴァンニ。おまえ、なにやった?」
「何? カーフェイ? 僕に何か思うところでも?」
 アンジェリークが去った後、ジョヴァンニに釘をさすようにカーフェイガ問いかけるとジョヴァンニはとぼけた振りをする。
「あの娘はレヴィアス様のお気に入りだ。そのお気に入りがこんなところでどう見ても意に染まぬ食事を強いられてるのを
見て、面白がらないはずがないからな」
「やだなぁ。ちょっと、『アルヴィース自動車のCMソングのインストが気に入らなかったから、今夜中に作り直せ』って、伝言を
頼んだだけだよ」
 あはは〜と、悪びれることなくジョヴァンニは笑う。
「ですが、問題ですね。レヴィアス様のお気に入りに手を出そうなどとは……。それに応じる彼女も問題ではありますがね」
「それこそ、業界のしがらみってもんじゃない、ユージィン? レヴィアス様が気に入るほどの人材だよ?」
「確かにあの方の“歌姫”ではありますね……。あの方の楽しそうな顔を久しぶりに私たちも見ましたから……」
「確かにあの方の“歌姫”ではありますね……。あの方の楽しそうな顔を久しぶりに私たちも見ましたから……」
 そう言って、ユージィンはグラスのワインを一口口に含む。
「調べてみましょう。もし、それが彼女にとって不利益なら、レヴィアス様に報告すべきことでしょうからね」
 その言葉にジョヴァンニはしてやったりと笑顔を見せた。


また、ジョヴァンニに美味しい役をさせてしまった……。しかし、この3人でテーブルを囲むと怖いなぁ……。


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