アンジェリークの毎日は忙しい。新曲が好評なため、TV番組の出演や、雑誌などのインタビューガぎっしり詰まって
いて、充実した毎日だ。レヴィアスに会いに行くのはその時間を縫ってのことだ。
「あの方に気に入られるようにするんだぞ」
 事務所の社長やマネージャーはそう言ったが、それはアンジェリークにはどうでもいいことだった。レヴィアスにしても
そうだろう。アンジェリークが遊びに行くと、取り留めのない会話ばかりで。そんな取り止めのない時間が好きだった。
いつ仕事をしているのか、考えたこともあったが、『上の人間ほど暇なものはない』との一言で片付けられてしまった。
『あの方が働き過ぎられると、我々も大変ですから』
 少しばかり寂しさと苦笑交じりのカインの言葉にアンジェリークは笑うしかなかった。自分たちの関係が心地いいとは
思うから、無理に自分を作ったりはしない。ありのままのアンジェリークだからこそ、レヴィアスは相手をしてくれているの
だから。
 だが、アンジェリークの周囲の人間の思惑はと言えば、いかにレヴィアスを取り込めるかということらしい。レヴィアスが
アンジェリークのパトロンともなれば、事務所はさらに大きくなる。業界にも大きな発言力を持てることになるだろう。確かに
この世界で生きてゆくためには必要なことかもしれない。だからと言って、レヴィアスをそんなことに利用したくないと思う
自分を甘いとは思いたくなかった。
「アンジェ! 今度の新曲が決まったぞ」
「本当?」
 マネージャーの言葉にアンジェリークは顔を輝かせる。
「ああ。春から始まるドラマの主題歌として、タイアップする。頑張って、売り込んだし。何よりもこの間のCMで一気に
来たって感じ」
 ドラマの主役を勤めるのは、トレンディドラマでは欠かせない俳優と女優で。しかも脚本家はヒットメーカー。そんなドラマ
とのタイアップともなれば、それなりの宣伝効果を期待できる。自分の歌をよりたくさんの人の耳に触れてもらえる。
「……それで。アンジェリーク」
「何?」
 喜びを隠せないアンジェリークにマネージャーは言いにくそうに口ごもる。それが意味するところを察し、アンジェリークの
表情が途端に凍りつく。
「今度の新曲のプロデューサーが今度アンジェと食事でもしてゆっくりと話をしたいそうなんだ。ほら、この間にパーティで
あっただろう?」
「……」
 記憶を辿れば、とあるパーティーでやたらなれなれしかった男がいた。自分が手がければ、どんなアーティストもミリオンを
飛ばせると豪語していたのを覚えている。なめるような視線が嫌で、上手く裂けてはいたのだが。
「場所はこのホテル。明日の夜のスケジュールは空いているから、一人で行けるね? ハイヤーを用意させておくから」
 アンジェリークの意思などは関係ない。それをアンジェリークがわかりすぎるくらいにわかりすぎているから、省みる必要
などもないと考えているのかもしれない。
「アンジェリーク、その……」
「わかってるわ……」
 わかりたくもないけれど。わかってしまわなくてはいけない。それが自分の選んだ道なのだ、そう言い聞かせるかのように、
アンジェリークは強く拳を握った。


新展開です。そういう設定だからなぁ、アンジェ……。


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