それから、アンジェリークは仕事の合間にレヴィアスの元を頻繁に訪れるようになった。その時々で色々なものを持って。
すっかり、守衛とも顔なじみになり、今では世間話までするようになった。
「レヴィアス〜」
 今日もいつものようにレヴィアスの部屋に入ると、困ったような顔をする看護婦と聞く耳を持たないと言った顔のレヴィアスと
言った取り合わせに遭遇した。
「……えっと?」
 タイミングがまずかったかな…と焦ってしまう。カインには今はあいているから、と言われたから、そのまま来たのであるが。
「あ、ごめんなさい。後でまた……」
 気まずいと重い、アンジェリークは出て行こうとしたが、レヴィアスはそれを制する。
「出て行かずともいい。邪魔なのはそこの看護婦だからな」
「レヴィアス様!」
「命令だ。従えぬのなら、別の看護婦に変えてもらうだけだ」
 有無を言わさぬ冷たい口調。看護婦はため息をつくと、かばんの中からピルケースを取り出して、テーブルの上に置く。
「わかりました。でも、薬はちゃんと飲んでくださいよ。あなたの身体なんですから」
 しぶしぶと言った様子で出て行く看護婦をアンジェリークは呆然と見送る。
「……レヴィアス、どこか悪いの? あ、ごめんなさい。聞いちゃいけないのなら、聞かない」
「……あの看護婦に言わせると、我は不良患者らしい。どうせ、飲みもしない薬を置いてゆくだけだ」
「……ふぅん」
 話をそらされているのはわかってはいるけれど、それ以上聞かないほうがいいのかもしれないと判断して、アンジェリークも
そのまま頷くだけ。
「でも。飲まないと薬代がもったいなくない?」
 我ながら、論点がずれているとは思うし、薬代くらいで傾くような会社の主でもないのだ。ただ、どういう会話に切り替えるのか、
わからなくって。
「そこのチェストの中を見てみるといい」
「うん……」
 言われるままにチェストの引き出しをあけると、未開封の薬ばかり。
「……すごいね」
「こうなっても諦めないらしい」
「レヴィアスもすごいけど、諦めない看護婦さんもすごいわ」
 そういって、アンジェリークはくすくすと笑う。
「何がおかしい?」
「何だか、レヴィアスって子供みたいじゃない?」
「どこが?」
「薬を飲みたがらないって? 苦いから?」
 茶化すように聞いてくるアンジェリークにレヴィアスは静かにかぶりを振る。
「……こんな薬に頼るのはもう無駄なだけだ。我に手に入らぬものはほとんどないのだぞ?」
「レヴィアス?」
 自嘲気味なその瞳の色が気になる。深い闇が映し出された瞳。だから、それ以上は踏み込めない。
「じゃ、話を変えよ。ね、レヴィアスって結構退屈してるんだよね? 前に言ってたでしょ?」
「ああ、言ったな」
「じゃ、さ。対戦しない?」
「……は?」
 アンジェリークのいきなりの言葉に流石のレヴィアスも二の句が告げない。そんなレヴィアスを気にすることなく、アンジェリークは
かばんの中から携帯用のゲーム機を二台取り出す。
「対戦相手が欲しかったの。レヴィアスはこっちね」
「おい、我の話を……」
 レヴィアスの言葉を聞くこともなく、アンジェリークは携帯ゲーム機をケーブルでつなぐ。これね、移動ボタン。で、このボタンが
……。で、同じ色のがそろうと、消えるの。連鎖もありだから。頑張ってね」
 一方的に説明をまくし立てると、アンジェリークはゲームをスタートさせてしまう。
「じゃ、いざ勝負!」
「だから……」
 レヴィアスの言葉を最後まで聞かれることはなく、電子音がゲーム機から流れる。パズルゲームらしく、色とりどりのボールの
ようなものがぽんぽんとつまれていく。とりあえず、説明どおりに同じ色のものをそろえようとするが、なかなか上手くいかない。
「よし、連鎖〜」
 しかも、アンジェリークの方から、妨害の玉らしきものが落ちてきて、一気に上まで積み上げられて、ゲームオーバーになって
しまった。
「レヴィアス、弱い……」
「いきなりできるか。こんなもの」
「じゃあ、これ、レヴィアスにあげるから。練習しなさい。後ね、これも面白いのよ」
 次から、次へと出されるゲームを取り出すアンジェリーク。
「たまにやると、こういうゲームも楽しいよ? 退屈しのぎにはなるでしょ?」
「気を使ってくれてるのか?」
「そうじゃないけど。でも、ほら。共通の話題ができると楽しいかなって。あたしじゃ、レヴィアスと共通の話題ってないし」
 世界が違うから、と暗にアンジェリークが告げる言葉にレヴィアスは苦笑する。
「なるほど……。我の趣味にはお前はまだ付き合えないだろうしな」
「レヴィアスの趣味って?」
「これだ」
 机の中から、洋酒を取り出すレヴィアスにアンジェリークはいたずらな笑みを浮かべる。
「それ、高そうだけど、美味しい?」
「よせ。我がカインに叱られてしまうからな」
「何だ、つまんない……」
「まぁ、我がお前に譲歩してやるほうが楽なのかも知れぬな」
「何、それ〜」
 楽しそうにアンジェリークはころころ笑った。

なんだか、ほのぼの……。楽しかったけどね。


‖<TOP>‖ <10> ‖ <12> ||