アルヴィース財閥本社の巨大ビルをアンジェリークは見上げる。2度目の訪問。だけど、あの時はマネージャーも一緒だったし、
虚勢を張ってはいたが、こうして見上げてみると大きくて、圧倒されそうになる。
「……ええい。女は度胸!」
 意を決して、与えられたカードを提示すると、ガードマンが専用のエレベーターまで案内してくれた。内線で連絡を取ってもらって
からしばらくすると、エレベーターに乗るように言われ、そのとおりにした。
「こちらでお待ちください」
 迎えに来たカインに客間に案内されると、アンジェリークはほっと安堵のため息をついた。客間といっても、つくりはかなりのものだ。
ホテルのスィート以上だろう。
「お金持ちってこういうところにお金をかけるんだよね……」
 そういうお金持ちが迎えるのはやはり同じようなお金持ちだから。礼儀ではあるのだろう。柔らかなソファに腰掛けて、ため息をつく。
自分とかけ離れた世界の人。どうして、自分のような小娘に興味を持ってくれたのだろう。それが不思議でならない。
「待たせたな」
 ノックもせずには言ってくるが、それは不快ではなくて。ここは彼の世界。踏み込んでいるのは自分なのだ。そんな気になっていたの
かもしれない。
「あたしこそ、突然押しかけちゃったしね」
「好きなときに来いといったのは我だ。お前が気にする必要はない。我はこの屋敷からは出ることは滅多にない」
「退屈じゃないの? お金持ってるんだから、いくらだって遊びようがあるでしょ?」
 アンジェリークの言葉にレヴィアスは曖昧な笑みを浮かべる。
「あ、ごめんなさい。あたし、嫌なこと言ったよね?」
「いや。そういうわけではない。退屈ではあるが、それをどうにかしようとする気もない。仕事が半ば趣味のようなものでもあるしな」
「じゃぁ、邪魔じゃないの? 今はお仕事中でしょ?」
「上の人間はそれほど動かぬものだ。だからこそ、退屈なのだがな」
「……ふぅん」
 よくはわからないが、そういうものなのだろうか。アンジェリークの所属事務所の社長などはばたばたと走り回ってるから実感がない。
もっとも、アンジェリーク一人で持っているような事務所である。比べるようなレベルではないのだ。
「あ、そうだ。新曲。もう聴いたとは思うんだけど。持ってきたの!」
 CMのフィルムはレヴィアスも直接見ているとは聞いている。気の利いている人間なら、発売前のCDをレヴィアスに渡しただろう。
だが、アンジェリークはレヴィアスに直接届けたかったのだ。
「CMは見た。断片的だが、いい歌だとは思えたな」
「聴いてないの?」
「お前が届けに来るだろうから、な」
「レヴィアス……」
 確信めいたレヴィアスの言葉にアンジェリークはついつい笑みをこぼしてしまう。
「うん。届けに来たの! しかも、今なら、あたしの生歌つきだよ?」
「ああ。聴かせてもらおう」
「うん」
 何だか、とても嬉しくて。アンジェリークはレヴィアスをソファに座らせて、恭しく礼をする。
「じゃぁ、歌います」
 演奏も何もない場所で。自分の声だけが唯一つの楽器。ただ一人の観客のためにアンジェリークは歌いだす。その表情はこれまでの
どの表情よりも満ち足りたものだった。

レヴィアスに認めてもらうことが嬉しいのです。そういうアンジェを書きたかったのでした。


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