何時間にもわたるレコーディングがようやく終わると、パチパチとジョヴァンニはアンジェリークを拍手で迎えた。
「完敗、だよ。まさか、ここまでだとは思わなかった。僕たちの車にふさわしいよ」
「あ、ありがとうございます」
 認めさせるために歌おうと思っていたのはほんの最初だけで。後は歌の世界に入り込んでいたから、ジョヴァンニの
発言のことなどすっかり頭から飛んでいた。アンジェリークは素直に礼を述べる。
「面白い子だね、君は?」
「はぁ……」
 くすくす笑うジョヴァンニにアンジェリークは複雑そうに笑う。
「CDの発売日が決まったら、教えてくれる?」
「あ、送りますよ」
「いいよ。気に入ったものは自腹を切る主義なんでね」
 そう言いながら、ジョヴァンニはアンジェリークの耳元にそっと囁く。
「でも、レヴィアス様にはすぐに届けてくれるよね?」
「はい」
 聞こえないように返事をする。自分とレヴィアスの関係を利用させないため、と言うより、レヴィアスを利用させない
ためなのだろう。
「じゃ、僕はこの辺で」
 そのまま去ってゆくと、スタッフたちがアンジェリークの下に集まってくる。
「アンジェちゃん、よくやったな。俺たち、胸がスカッとしたぜ!」
「ああ。それにアンジェちゃんの歌声がいつもよりよくって、感動した」
 次々に感嘆の言葉を述べるスタッフたちにアンジェリークは照れくさそうに笑う。
(レヴィアス、あたし、頑張ったよ……)
 ジョヴァンニに言われるまでもなく、レヴィアスには一番にCDを届けるつもりだった。レヴィアスに認めてもらえなけ
れば一人前ではない、そんな気がしたから。


 新曲の録音が終わると、次はプロモーションビデオの撮影やジャケットやポスター撮りでばたばたとアンジェリークの
周辺はあわただしくなる。今度の新曲はこれまでのアンジェリークのイメージをいい意味で覆すためだ。そこそこに
歌える可愛いアイドルではなく、聞くものの心を捉えてやまない歌姫へのステップアップ。キャンペーンの準備や、
新曲の宣伝もかねてのTV出演。
「アンジェちゃん、新曲すごくいいカンジだね〜」
 発売前であるのにもかかわらず、業界内での評判は上場で。
「何かあったの?」
 興味津々といった感じで聞いてくる人間たちにアンジェリークは満面の笑顔で答える。
「ええ、とってもいいこと!」
 決してそれ以上は言わないけれど。その笑顔を見てしまえば、誰もが追求できないくらいに誇らしい笑顔。
 そして、アルヴィース財閥関連の自動車会社の新車のCMが流された。真っ白で警戒かつ優雅に走る車の映像に
載せて流れるアンジェリークの曲は聴くものの耳を捕らえて、離さなかった……。

ジョヴァンニもアンジェを気に入ったようです。彼はこういう役回りが多いなぁ……。


‖<TOP>‖ <8> ‖ <10> ||