「だって、あたしのことをよく知らないのに呼び出すってことはそういうことでしょう?」
「今までがそうだったのか?」
「……! そうよ」
 キッと射抜くような瞳でアンジェリークはアリオスをにらみつける。
「この業界で生きて生きたいんだろう…って。うちの事務所はあたしひとりで持ってるようなものだから、社長もマネージャーも
言うことを聞けって……。わかったでしょ? ねぇ、どんな風なのが好み? あわせて差し上げるわよ。服のままがいいって言う
のなら、それでもいいし。そこの秘書さんも交えてって言うのも大丈夫だけど?」
 感情がほとばしる。こんなことは今までなかったと言うのに。
「どこぞの爺はヒールで踏んでくれって、あたしの足を舐めもしたわ。どんなに立派なスーツなんかに身を固めていても、考える
ことはみんな一緒なんでしょ? あなただって……」
 とまらない感情をそのままぶつけている。自分でもみっともない。きっとこの仕事はなかったことにされるだろう。スポンサーを
不快にしたのだから。けれど、止めることなどできなくて。
「わからぬな……。ならば、如何して、そこまでしがみつくのだ? お前にとって不快なことなら、止めてしまえばいい」
「……好きだからよ」
 言葉がこぼれだす。聴かれたことを素直に答えるなんて、滅多にしないこと。
「あたし、歌うのが好きで、いろんな人に聞いてもらいたくて、飛び込んだ世界だから。こんなことで屈したくなかった……。やられっ
ぱなしじゃ、悔しいから、いつか見返してやりたくって……」
「……成る程」
 アンジェリークの言葉にレヴィアスは静かに告げた。
「じゃあ、歌え」
「……え?」
 一瞬、アンジェリークは自分の耳を疑った。今、レヴィアスの言った言葉が理解できなかったのだ。そんなアンジェリークに
レヴィアスはもう一度言葉を投げつけた。
「聞こえなかったのか? 我は歌えと言ったのだ」
「歌うって、歌を?」
「そうだ。お前は歌手なのだろう? 我はお前がどのような歌を歌うのかは知らない。だから、使えるかどうか聞くだけだ。もしや、
歌えぬわけではあるまいな」
「う、歌えるわよ。でも、そんなことであたしを呼び出したわけ?」
 ただ歌を聴くだけなら、別にアンジェリークを呼び出さなくても、CDを聞けばいいだけの話だと言うのに。
「実力がなくてもそれなりに聞かせるように編集されたCDを聞いても意味はないだろう? 聴くに値しなければ使いはしない。それとも、
ここで即興で歌えはしないか?」
「う、歌えるわよ。馬鹿にしないで!」
 むっとしたアンジェリークは深呼吸をする。オケも何もない、自分だけの声での勝負。負けたくはない。スポンサーに媚を売るの
ではなく、自分の実力を見せ付ける。それはアンジェリークにとっては何よりも心地のいいことだったから。
(この人は違う……)
 今まで会ったどんな大人とも違う振る舞い。小娘に過ぎないアンジェリークに実力を見せてみろ、と。一人の人間として、アンジェ
リークを評価しようとしている。
 だが、今のアンジェリークはレヴィアスのまなざしの色には気づいていなかった。自分と同じものをアンジェリークに感じている、その
瞳の意味を……。


実は、この「歌え」というシーンがとても気に入ってます。


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