(思ってたより、若い……。カインって人とそんなに変わらなさそう……)
 鮮やかな一つずつの瞳の次に考えたことがそれであった。まだ、世界有数の財閥の総帥が二十代後半くらいの青年であった
ことがアンジェリークにとっての何よりの驚きだったのだ。一台で財を成したと聞いていたので、てっきり老人だと思っていたのだ。
「はじめまして。アンジェリーク・コレットです。及び頂いて、光栄です」
 にっこりと営業スマイル。天使の笑顔とも言われるこの笑顔で今までやり過ごしてきた。だが、目の前の人物はこの手の小細工が
利くような人種ではなかったのだ。
「アイドルらしい笑顔…というよりは、それを対象にした張り付いた笑顔、という奴だな。条件反射で出るようになっているのか?」
「……!」
 見透かすような眼差し。だが、それは嫌悪でも侮蔑でもなく、見たままをいってるらしい。
「確かに大抵の人間ならごまかせるのだろうな。流されて生きてゆくのなら、それもいいかも知れぬが、そのような強い瞳を隠せ
ないのなら、やめておいたほうがいい……」
「ふーん。大財閥の総帥って言うから、どんなおじさんかと思ってたんだけど。思っていたより若いから、びっくりしたわ。でも、わざ
わざ、人を呼び出しておいて、その言い草はないかと思うけど?」
 小細工は通用しない相手に媚を売っても得策ではない。ならば、開き直るしかない。
「そのような口をきいても大丈夫だと思っているのか?」
「勝手にすれば、おじさん? どうせ、あたしを呼び出したのだって、金持ちの気まぐれとかいう奴でしょう? 社長がスケジュールを
全て打っ棄ってでもここに来させたくらいだから、それなりの見返りは保障されてるんでしょうし?」
 そう、自分を呼び出したのは気まぐれなのか。それとも他に目当てがあるのか。どちらにせよ、アンジェリークに選択肢はない。
けれど、大人しくしようとも思わなかったのは、全てを見透かすような二色の眼差しの前にはごまかしが通用しないと思ったからだ。
ならば、自分らしく行くしかない。
「媚を売る…とかは考えていないのか?」
「売ったって、買ってくれそうにない相手には売るだけ無駄よ。違う?」
「確かに、だな」
「わかってるんなら、早く目的を果たしてよ」
「目的?」
 アンジェリークの言葉にレヴィアスは少し考えるような振りをする。
「何よ。人を呼び出しておいて。ま、どうせ、考えることは誰もが一緒だと思うけどね」
 媚を売っても通用しない相手だからといって、今まで相手にしてきた連中とレヴィアスが同類でないとは限らない。
「で、どうすればいいの? このまま脱げば良いわけ?」
「……。そういう意味か?」
 どこまでも見透かすような瞳にアンジェリークは苛立ちを隠せない。どんな小細工も通用しないのだ。
「どうせ、あなただってこれが目当てなんでしょう? でなければ、わざわざこんな大財閥の総帥自らが、こんな一介のアイドルを
呼び出す必要もないでしょう? 安心してよ。変な病気は持ってないし。おじさんの好みに合わせてあげられるから」
「……」
 決して視線をそらさない。見透かすような瞳に見つめられても。それがアンジェリークの精一杯の意地だったから。


アンジェリークが荒んでる理由が明らかになりました。レヴィアスをおじさん扱いなのはどうかと……。


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