とりあえず、待たせることも失礼な相手だというので、着替えなどもそこそこに車に乗せられる。車の中でメイクを直しながら、
アンジェリークは素朴に思った疑問を投げつけた。
「この後、仕事入ってたんじゃないの?」
「アルヴィース財閥の会長と秤にかけたら、どちらが重いと思うんだ」
「まぁ、そうね」
 つまりはそれほどに重要な相手、だ。プロダクションにしてみれば、大財閥とのコネクションができるチャンスだ。このチャンスを
逃す手はない。それはたかがアイドルのアンジェリークでも良くわかっていた。
 やがて、車は巨大ビルにたどり着く。最初に案内されたのは応接室だった。
「お待ちしておりました。私はカインと申します。総帥の秘書をしております」
 社長とアンジェリークに名刺を渡した人物は二十代後半と思しき青年だった。態度も慇懃無礼ではなくどちらかというと丁寧に
扱われて面映い感じだ。
「あなたがアンジェリーク・コレットですね?」
「わざわざ確認とらなくったってあたしは本物のアンジェリーク・コレットよ。替え玉を連れてくると思ってたの?」
「こ、こら。アンジェリーク」
 反抗的ととられる態度をとったアンジェリークを社長は慌てていさめる。だが、カインは気にする様子もない。
「いえ。私どもはあなたのことを名前では存じ上げていても、初対面でもありますし、確認させてもらったまでです」
「ふぅん……」
 普通、17歳の小娘に大財閥の総帥の秘書がなめられるような発言をすれば、不機嫌をあらわにしてもおかしくはないのに。
「では、総帥がお待ちです。こちらへ」
「え……?」
 エスコートするように差し伸べられた手にアンジェリークは戸惑いを隠せない。こんな丁寧な態度をとられるのは初めてだ。
「いかがなされましたか?」
「べ、別に……!」
 怯んでしまったなどとは思われたくはない。アンジェリークはその手をとって立ち上がる。
「では、ここからは彼女一人にきていただきます。帰りはこちらのほうで彼女の自宅に送らせていただきますので」
「あ、ああ。よろしくお願いします」
 ぺこぺこと頭を下げる社長とマネージャーをアンジェリークは冷ややかに見つめる。
(何がよろしくなんだか……)
 心の中でそう毒づく。いつものことだ。そう割り切ればいい。ただ、カインの丁寧な態度が何だかいつもと違っていて。それに
戸惑っているだけ。そう思うことにする。
「ねぇ、総帥さんってどんな人?」
 直通エレベーターに乗せられ、そんなことをつい聞いてみる。
「このアルヴィース財閥をお一人で作られた方です。あの方の発想と行動力、カリスマ性は他の誰にも類を見ないものです」
「尊敬してるんだ?」
「ええ。あの方に仕えることができることを光栄に思っています」
 きっぱりと答えるカインにちょっと戸惑ってしまう。この人にこんなことを言わせるのはどんな人物なんだろう、とアンジェリークは
これから会う相手に初めて嫌悪以外の感情、いわゆる好奇心を持った。
 やがて、エレベーターが最上階に着いた。


カイン登場。やはり、尊敬すべき大人として書いていこうと思います。アンジェリークもこの人には一目置く予定。


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