一方過去の方では……。
(また…あいつが来るのかな……)
ここ数日の間に現れた奇妙な高校生のことを思い出して、竜は溜め息を吐く。あいたくなければ、姿を見せなければいいのだが、何故か
それもできなくて。いつもこの木の下で小鳥と時間を潰してしまう。
「よう!」
「……」
それでも、不審の目をやめることはない。だが、当の本人である炎は気にしてはいない。大きい彼はもっとやっかいだったのだから、
これくらいなら可愛い方だとすら思ってしまう。
「あんた、学校は?」
「その言葉、そっくり返すぜ」
「今日は四時間授業だ」
「いいよなぁ、小学生は……」
「……」
らちのあかない会話だと思う。相手から見れば自分はほんの子供で。ずいぶん生意気に映っているであろう。それなのに、彼はそんな
ことを気にしていない。まるでそれが当然のように接してくる。
「食うか?」
その言葉とともに差し出されるあんパン。甘いものは好きだ。どちらかと言うと、和菓子系の人間であんこは好きだ。だが、自分は彼に
そんなことを言っていないはずなのに。いつも当然のように差し出してくる。まるで、以前から彼を知ってるように接してくるのだ。
「食わねぇのなら、返せよ」
「……食べる」
ぷい…と顔を背けて、あんパンを口にする。甘い味。奇妙な時間…だと竜は思う。彼のことは何も知らない。彼は自分が刃柴竜である
ことを知っている。自分がこういう性格だと見越して…接してくる。
「……あんた、何なんだ?」
「あ…俺か……?」
竜の言葉に炎はしばらく考える。そして、悪戯っぽく笑って言った。
「実はな…世を忍ぶ正義のヒーローだっていったら、信じるか?」
実際は本当のことである。世を忍んでいるかどうかは知らないが(笑)。
「正義のヒーローが授業をさぼってもいいのか?」
明らかに疑いの眼差しを向ける竜。
「正義のヒーローの常套手段だぞ」
そう言うが、正義に関係なく授業をさぼってる人間であることに代わりはない。竜の疑いはもっともなのである(笑)。
「ま…どうでもいいけどな。そんなこと。調べ物があるんだ」
「調べ物?」
不意にまじめな顔になった炎に戸惑いつつもその先が気になる。
「おまえ…この裏山に詳しいか?」
「……?」
「最近、何か動物の様子がおかしいとか、分からないか?」
「あんた…何言って……」
「ああ…悪い。こっちの事情に巻き込むのもルール違反だな。そう言うの嫌いだもんな」
その言葉に竜は息を呑む。確かに炎の言う通り、他人に干渉されるのは嫌いだし、接するのも極力避けている。だが、どうして彼は
それを知っているのか……。
「あんた…何者だ?」
「……言っただろう? 正義のヒーローだって」
不敵に笑って言ってのける炎。
「もういい!」
立ち去る竜に炎はポリポリと頭を掻く。正直言うと、炎にしても迷っているのだ。ここにいる竜は彼の知ってる高校生の竜ではない。下手に
巻き込むべきではない。たとえ…竜の過去に炎が接しているとしても。
「おまえはどう思ったんだろうな…竜……」
自分がよく知っている高校生の竜に届くことはないとわかっていても…そう呟かずにいられない炎であった。
一方、裏山の奥の方まで駆けていった竜は自分の中の苛立たしい感情に戸惑う。
(何なんだ…あいつ……)
竜を知っているかのように振舞う。彼を理解している…と。だが、自分は彼の何も知らない。それがなんだか悔しくて。
(もう…関わらなきゃいいんだ……)
あの場所に行かなければ、きっと会うことはない。彼の居場所はこの裏山のどこにでもあるのだから。そう思って、冷静になった瞬間、
竜はあることに気づく。
「枯れ葉が多い……?」
季節は落ち葉にはまだ早いはずなのに。木の葉が異様に落ちている。心なしか、木に元気がない。そして、下草は枯れ始めている。
全体に森が弱り始めているのだ。
「何なんだ……?!」
ガサッッ! 物音に反射的に振り返る。小さなウサギ。だが、どことなく弱々しい。
「どうした?」
「……?」
目で訴えてくる。助けてほしい…と。
「助けてって…何から? 人間がまた何かしたのか?」
心ない人間の虐待を受けたのか…と、問う竜に弱々しく首を振るとウサギは着いてこいとばかりに駆け始める。
『何か動物の様子がおかしいとか分からないか?』
不意にさっきの言葉が脳裏に浮かぶ。だが、振り切るように首を振る。
「あいつは関係ない……!」
そう呟くと、竜はウサギを追いかけ始めた。
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