「……で、帰り道でわざわざ俺を呼び出したわけ?」
校門を出て、海たちと別れた途端に、タイミング良く鳴ったダグコマンダーによって、呼び出された森は軽く溜め息を吐いて、二人を見る。
校門からダグベースまで、ななりの距離を往復させられたのだから、無理もない。
「すみません。他の先輩方に知らせるわけには行かなくて……」
シュンとなる雷に森は苦笑する。
「おいおい。そんなふうだと、俺がいじめてるみたいじぇねぇか」
「え、違うんですか?」
「翼、おまえね……」
ボリボリと頭を掻いて、おどけたように森は肩をすくめる。
「ちょっとした軽いジョークだっちゅーの。あいつらと別れてから俺を呼んだってことは他の連中だと頼みにくいってことなんだろ? 話して
みろよ。聞いてやるから」
「森先輩……」
その言葉に雷は振り返って、翼に笑顔を見せる。翼の言葉通りだった。普段は軽い印象が否めないが、ちゃんと見るべきところは見て
いてくれていたのだから。
「森先輩にお願いがあるんです。僕と翼先輩は炎先輩と連絡を取って、対策をとらなきゃならないから、動けないんで……」
「俺にできること?」
「はい。まずは僕の話を聞いてください。ほかの先輩の前では黙っていたことなんですけど……」
「……?」
翼と森は首を傾げる。
「時空の自浄能力のことなんですけど……。それは人間の記憶にしても同じなんです。あるべきでない時空の人間や物に接触した場合、
接触された人間の脳はその後の混乱を避けるために自浄能力でその記憶も排除されるんです」
「……そりゃ、そうだろ」
故意にしろ、偶然にしろ、過去にとんだ人間がその時代の人間と接することで簡単に歴史が変わってしまうこともある。
「これはあくまでも仮説です。でも、確信は半分くらいあります」
「……竜が炎に関わったとでも?」
竜を探りたい…と、森を呼んだのだから、そうに違いないと翼は思う。
「あいつに関わった?!」
呼ばれた方の森は驚くしかなくて。
「ええ。もちろん、仮定に過ぎません。ですが、あの宇宙人との戦いの時や炎先輩が消えた後の竜先輩の様子がおかしかったんです」
「……あいつがおかしいのはいつものことだと思うんだけどって、話の腰を折ってる場合じゃねぇよな」
「ご協力ありがとうございます。竜先輩はあの宇宙人や炎先輩に関わったと思うんです。多分、炎先輩やあの宇宙人が姿を消した時に
混乱を避けるために記憶を封印されて……。でも、今、現在であの宇宙人に遭遇して、記憶の封印が綻びかけていると思うんです」
「……あいつが鍵を握ってるってわけか」
「はい。竜先輩は何かを知っているはずです。思い出せないのか、思い出したくないのか……。それはわかりません。でも、思い出して
もらわないと……」
「炎が戻る術が分からない…か」
そういうと、森は溜め息を吐く。
「で、俺はさりげなく竜に聞く役ってわけだね」
「森先輩……」
「ま、妥当な人選だな。おまえさんと翼はこっちにかかりきりだし、激は単純すぎて無理だな。海だとかえって、反発しかねないからな」
そう言って、軽くウインクする。
「ありがとうございます。じゃあ、メインコンピューターを動かしますから。よく先輩、サポートお願いします」
「ええ、判りました」
精神集中をして、雷はメインコンピューターに向かう。ゆっくりと画面が起動してゆく。ディスプレイ上のキーボードやボタンを次々に
てきぱきと操作するその様子はいつもの頼りない雰囲気の彼とは違い、真剣そのものだ。
「流石は刑事だな……」
「そうですね」
ちょっと見なおしてみたりする森と翼である。
「翼先輩、すみません。そこのディスクを取ってください」
「これですか?」
「はい」
渡されたディスクをセットして、また新しい作業に入る。
「今、時空を超えた通信のセットをしてます。翼先輩、これを入力してくれませんか? そのノートパソコンにつなげてある分です」
「これを?」
書類に羅列されているのは意味不明のアルファベットばかり。
「そのデータをそのまま打ちこんでください。メインにつなげてありますから、メインの中で僕達の言葉に変換されます」
「そんな機能もあるんですね」
「ダグベース自体が一つの基地として機能しますから。基地としての最低限の設備は用意してあるんですよ」
そう言いながらも、雷の手は休むことなく動いている。
「じゃあ、僕も始めますね」
キーボードの音と機会の起動音が響く。
「よし」
不意に、雷の手が止まる。
「設定は完了です。これから、時を遡って、炎先輩に連絡が取れます」
精神を集中させたためか、軽く疲れたように雷はため息をついた。
「俺にはわからない世界だな……」
軽く肩を竦める森。だが、それはそれでいいと思う。自分ができることをするだけなのだから。
「じゃあ、これから、時空を遡るプログラムをメインに流します」
そういうと、雷はメインコンピューターに向かう。
「時空プログラム始動」
その言葉とと共にダグベースの画面が今まで見たことの無い物に変わる。
「画面が揺らいでるぞ」
「時空を超えているからですよ、森先輩」
しばらく画面は揺らいでいたが、ようやく落ち着きを見せてくる。画面には今の山海市とさほど変わらぬ風景が映し出されている。
「どれくらい前の過去なんでしょうね……」
「とにかく、女の子を探せよ」
「森……」
冷ややかな翼の視線に森は首を振る。
「違う違う。服装を見るだけだ。それでだいたいの時代が掴めるだろうが」
言ってることはもっともなのだが、森が言うと説得力に欠ける気がするのは、翼の気のせいなのか……。
「反応があります。これから、エン先輩のダグコマンダーにアクセスします」
二人の会話を聴くともなしに、作業を続けていた雷はある意味、大物かもしれなかった。
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