いつも竜がいるはずのその場所には見知らぬ子供の姿。小学校低学年くらいだろうか。
(なんで、小学生が……)
他校生が入りこむこともしばしばの山海高校ではあるが、炎にして見れば,そこは竜の指定席とも言える場所なので,違和感が
隠せない。だが、現在の状況を掴む必要があるので、話しかけてみることにする。
「なぁ、お前、この辺で髪の長い奴を見なかったか?」
「……」
少年は返事をすることなく炎を見つめている。警戒心があるらしい。
「別に妖しいもんじゃねぇよ。俺はここの生徒だし。仲間を探してんだ。知らなかったら、答えなくていいから」
「……知らない」
無愛想な口調でボソリ…と紡がれた言葉。
「そっか。なら、いいや」
クルリ…ときびすを返す。少年は表情を帰ることなく、その背中を見送った。
(しかし、無愛想なガキだな……。まるで、あいつみたいだ)
そんなことを考えながら、裏山を下りてゆく。今は時間的には放課後である。下校途中の生徒たちもちらほらと。
「……自転車がない?」
自転車置き場においておいた自転車がないことに炎は戸惑う。鍵はきちんとかけていたはず。
「盗まれたのか?」
ため息をつくしかない。とりあえず、家に帰って色々と整理をしたかったのだ。
「仕方ねえなぁ……」
自転車通学と言えど、歩いて帰れない距離ではない。ファイヤーストラトスもある。だが、炎は底で今まで感じていた奇妙な
違和感の正体を知ることになった。
「嘘だろう?」
家に帰れば、いつものように誰もいないはずであった。だが……。
「ワンワン!」
玄関の横には犬小屋があって。元気に吠えている。それはかつて炎が飼っていたケンタである。
「なんで、ケンタが……」
呆然とする炎にケンタは戸惑いながらも擦り寄ってくる。多分、姿は違っていても自分の主人の匂いを感じているのだろう。炎は
そっとケンタに触れる。少しばかりの胸の痛みを感じる。兄弟のように育った愛犬だったから。亡くした時に随分泣いた。
バタバタ…と、駆けて来る足音に炎は現実に立ち戻る。
「ケンタ、ただいま!…って、誰?」
自分の愛犬と見知らぬ他人が戯れていれば、戸惑わないはずがない。かつての自分に苦笑しつつ、炎はケンタから離れる。
「悪い。昔飼っていた犬に似ていたから、つい見せてもらってた」
「ふぅん……」
疑いもせずに小さな炎はケンタに向かう。屈託のない笑顔と共に振り返る。
「ケンタが懐いてんだ。悪い人じゃないよな、兄ちゃん」
「まぁな」
なんせ、未来では勇者なんてやっているのだし。今はケンタが元気な頃だから、多分、小学校の低学年の頃だろうか。
「じゃあな。ケンタを可愛がってやるんだぜ」
「うん」
クシャリ…と小さな自分の頭を撫でてやると、くすぐったそうに身を捩る。しばらくそうしてから、炎はその場をあとにした。
(過去に飛ばされたってことか……。どうりでダグコマンダーが使えないわけだ)
とりあえず、ポケットの中から財布を出して、中身を見る。小遣いと生活費の一部をもらったばかりだから、それなりには入って
いる。ファイヤーストラトスの中にも買い込んだスナック菓子の類があるから、しぱらくはなんとかなるだろう。
(問題はどうやって未来に戻るか…だ……)
今まで色々な宇宙人と戦いはしたが、タイムスリップなどは初めてのことだ。
(何か手がかりは……。やっぱ、裏山か?)
考えてみても、埒は明かない。あれこれ考えるよりも、動いたほうが気分的にも楽になれる。炎は学校への道を戻っていった。
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