山海高校の裏山で、竜はいつものように小鳥や小動物を相手に心を交わしあう。この学校に入学する前から、よくこの裏山に
来ていた。そのため、動物たちも竜を自分の仲間だと思っている。

「竜!」
 騒がしさを伴って現れる少年に竜は溜め息を吐く。騒がしいと小鳥が逃げると、何度忠告しても聞き入れることはない。学習
能力は皆無に等しいらしい。

「静かにしろ。動物が怯える」
「あ、悪い。でも、だいぶ、俺のことを認めてくれたよな」
 自分はダグオンのリーダーで、竜は謎が多い。だから、竜の秘密を探るのだ…と、炎は何度も遠慮なく近づいて、探り回って。
色々とあったけれど、とりあえず今は竜の一番近い存在と言うことになっていて。毎日のように竜と会っているせいもあり、竜の
仲間だから…と、動物たちも炎を認めつつあるようだ。

(不思議なヤツだ……)
 最初はうっとうしいだけのはずだったのに。いつのまにか心の中に住み着いてしまっていて、離れようとしない。妹以外の人間に
踏み込まれることを嫌っていたはずなのに……。

「何だよ……」
「いや、何でもない……」
 不思議な感覚は彼と接しているからだけではない。高校に入ってから、何度も繰り返し、見る夢。正確に言えば、あの受験の
日から……。

“いつかまた会える……”
 その言葉と共に光の中に消えてゆく背中。あれは一体、何なのか。知っているはずの、知らない記憶。何度も繰り返される夢。
ぐるぐる巡ってゆく思考。

「……!」
 不意に、遠くで聞こえる号音。そして、ダグコマンダーがなる。
『炎、竜! 町で宇宙人が発生した』
 ダグコマンダーからの海の声。いつものように宇宙人の発生。
「行くぜ、竜!」
 ダッと、駆け出す炎。先を走る炎の背中。
(……?)
 不意にその背中に何かを感じる。既視感…と言うものだろうか。だが、それは一瞬のこと。すぐに現実に立ち戻る。そして、竜も
駆け出していった。


「何なんだよ、この宇宙人!」
 今回の宇宙人は何度攻撃しても、回復してしまう。
「胸の宝玉に回復エネルギーを司る力があるんです。そこを狙ってみてください」
 サンダーライに変身した雷の言葉に従い、激がドリルでまず狙ってみることにする。一転集中にするなら、ドリルの方が都合が
いい。

「うわっっ!」
 だが、こちらの思惑は読まれていたらしく、その攻撃は簡単に弾かれてしまう。
「仕方ない。攪乱して、意識をほかに飛ばさせるしかないな。シャドーリュウ。頼んだぞ!」
 ダグターボに変身したカイが竜に声をかける。だが、反応がない。
「竜?!」
「すまない。何でもない」
 そう言ってはみるが、奇妙な既視感がまた訪れている。初めて見たはずの宇宙人だ。以前に戦ったことなどあるはずがない。
知らないはずなのに、知っている。奇妙な感覚。

「俺が行くぜ! ファイヤーストラトス!」
 ファイヤーエンに変身した炎が合体のためにファイヤーストラトスを呼ぶ。
「融合合体!」
 融合合体し、ダグファイヤーと炎が宇宙人に攻撃を仕掛けてゆく。宇宙人の意識がダグファイヤーに集中する。
「よし、もう一度行くぞい!」
 今度はダグドリルになった激が宝玉を目指し、ドリルを向けてゆく。
「ギャー!」
 完全とはいかないまでも、宝玉は半壊することができた。
「よし!」
 誰もが勝利を確信した。このまま止めを指せば、これで終わりだ…と。だが、次の瞬間……
「何!」
 宝玉がまぶしい光を放って、消えていこうとする。
「逃がすかよ!」
 逃がしてはいけない、本能がそう叫んでいる。咄嗟にダグファイヤーが宝玉に飛びつく。
「ダグファイヤー!」
 だが、炎は振り返ることなく、そのまま光の中に取り込まれてゆく。そして、次の瞬間にはそこには何も残らなかった。そして、
残った宇宙人の体は石と化し、収縮してゆく。

「これは一体……」
 呆然となる一同。
「しまった……。あの手で逃げられるなんて……」
 悔しそうにサンダーライが呟いて、先ほどまでの宇宙人だった石を取り上げる。
「どういうことだ?」
「あの宝玉はあの宇宙人の本体であり、エネルギーを司る場所です。あの宇宙人は時を遡ったんです……。この地球のエネル
ギーを取り込むために……」

「何?」
「とりあえず、ダグベースに戻りましょう。話はそれからです。炎先輩の行方も気になります」
 とりあえず、宇宙人の姿は見えないし、その後のことを考える必要がある。
「そうですね。じゃあ、戻りましょうか。竜、いいですね?」
「あ、ああ……」
 翼に声をかけられて、竜は現実に立ち返る。
「どうしたんですか、竜先輩? 戦闘中もどこか動きが鈍かったようですし……」
「炎が心配なのは誰だって同じなんですよ」
「いや、何でもない……」
 炎が心配なのは…誰もが同じこと。それはわかっている。だが、それだけのことではなくて。何か、大事なピースが脳裏から
欠けている。そんな感覚が竜を支配する。 

(もしかしたら、竜先輩は……)
 竜の様子のおかしさに雷は不意に思い当たることに気づく。尊敬する竜の様子がおかしいのだ。親しくしていた炎が消えたこと
だけではない、何かに心を捕われている様子。

(だとしたら、鍵を握るのはおそらく……)
 翼の手の中に握られている宇宙人であったものの名残りの石を見つめる。
(炎先輩、どうぞ、ご無事で……)
 そっと祈る。彼にできるのは、それだけだったから……。


 木々のざわめきが耳にうるさく感じる。
「ん……」
 ゆっくりと目を開く。そこは見慣れた光景。
「ここは裏山……?」
 先ほどまで、街の中で戦っていたはずなのに。今、炎がいるのは山海高校の裏山。
(たしか、あの宝玉を捕まえようとして……) 
 まぶしい光に包まれた以降の記憶はないに等しい。
(でも…何か変だ……)
 奇妙な違和感を感じる。それが何であるのかは分からない。知っているはずの場所なのに、どこかそらぞらしく感じられる。
「おい、みんな!」
 声をかけても、誰もいない。飛ばされたのは自分一人なのだと嫌でも確信してしまう。
「ダグコマンダーも使えないのか……」
 何度ボタンを押しても、画面にはノイズが走るだけで、反応がしない。
(壊れたわけじゃねぇよな……)
 考えてみても仕方ないと、首を振る。
「トライダグオン!」
 いつものように変身の体勢を取る。すると、いつものようにファイヤーエンに変身できた。
(とりあえずは、あの宇宙人が来ても大丈夫…か……)
 ほっと息をつく。だぐファイヤーとして飛ばされたのだから、ファイヤーストラトスも無事であると思う。
「とにかく、竜がいるかも知れないな……」
 裏山と言えば竜…、炎の中ではそんな常識ができあがっていて。竜がいつもいる場所に行ってみる。
 だが、そこに竜の姿はなかった。かわりにいたのは……。
「……何?」
 見知らぬ少年が戸惑ったような表情で炎を見つめていた。


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