駄目だ――)
目の前寸前まで伸びてきた触手に、瞳を閉じる。だが、衝撃はいつまでたっても襲ってこなかった。
そして……。
「えっ?」
フワリと浮上する感覚に目を開ける。誰かが抱きかかえてくれている。いわゆるヒーロー系の姿をしているその人物に竜は戸惑いを隠せ
ない。鮮やかな真紅のコスチュームが目に鮮やかに映る。
「大丈夫か?」
「――」
その声に竜は驚く。さっきまで、竜と一緒にいた人物と同じ声だったから。
「あんた……」
「詳しい話は後だ。とりあえず、ここから離れるぞ」
そのまま、駆け出そうとするが、先ほどまでの物体が立ちはだかる。
“な、何故、ダグオンがここに……”
「ヒーローってのは、どんな奇跡でも起こせるんだぜ」
“未来の仲間のために、ここまで出来るというのか……”
その言葉に竜は自分の耳を疑った。先程、竜を誰かと認識していたことを。
(未来……?)
SFなどで良くある設定。現実ではありえないはず。そのはずなのに。
「ファイヤーストラトス!」
叫びと共に、ファイヤーストラトスが突っ込んでくる。
「ここで待ってろ」
竜を中に避難させる。
「待てよ、あんたは……」
竜の言葉は届かないまま、彼はファイヤーエンは宇宙人に向き合う。さっき、突然鳴り響いたダグコマンダー。画面越しにいたのは、雷と
竜の姿。
『炎、裏山に急げ。あの宇宙人がいる。場所は俺が案内する』
竜が告げた言葉。戸惑う炎に雷が大きく頷く。
『炎先輩。竜先輩の言葉どおりに行動してください』
「わかった」
竜の案内で裏山の奥に向かってゆく。奥に進んで行くにつれ、元気のなくなっていた木々。少しずつ、蝕まれていたのだろう。
『俺は見た。目の前で真紅の鳥が飛んだのを。目の前で見たんだ、間違いはない』
そう、それは高校生の竜にとっての過去。だが、今の炎や小さな竜には現実。
「サンキュー、竜。トライダグオン!」
躊躇うことなく、ダグオンに変身する。そして、炎が見たのは、宇宙人に追い詰められようとする竜の姿であった。
「歴史ってやつはな、簡単に崩れねえんだよ!」
不敵に言いきって、攻撃を仕掛けてゆく。まだ力を取り戻していない、宇宙人はされるがままだ。怯んだ隙を炎は見逃さなかった。
「ファイヤーバードアタック!」
その叫びと共に、火の鳥が宇宙人に突っ込んで行く。そして……。
“ギャーー!”
断末魔の叫びが響く。
“ク…こうなれば、いったん体に戻るしか……”
苦しげに息をつくと、宇宙人はなにやら、呪文のような言葉を紡ぐ。すると、空間が歪み始め、宇宙人が空間の中に溶け込んで行く。
「雷、宇宙人がそっちに戻る!」
『わかりました。まかせてください。炎先輩も早く……』
「ああ。わかった」
連絡を終えると、炎はファイヤーエンの変身を説く。そして、ファイヤーストラトスに向かった。
「悪いな。巻き込んじまって……」
竜を降ろすと、炎はペコリと頭を下げる。
「…あんたは一体……。未来の俺の仲間だって、あれは言ってた。なんなんだ。俺は当事者だ。知る権利はある」
「そうか、知っちまったか……」
けれど、炎が戻れば、忘れてしまうのだ。混乱を避ける為に……。だが、それだからと言って、竜が知らなくても言いという理屈は出てこない。
「俺の名は炎。未来でお前や、他の連中と勇者なんてやってる」
「勇者?」
「今はわからなくてもいいさ。未来で嫌でもこき使われるしな」
そう、いつか出会えるとわかっている。あの出会いから、すべては始まっていたのだから。
「また、会えるから。いつか、また……」
呟くように、そう告げると、炎は歪みに向かって歩き出す。
「待てよ、いつかって、いつだよ……」
消えて行こうとする背中。もう二度と会えない。それは確信。
「不確かな言葉なんて、要らない。いつかって、いつになるんだよ!」
その言葉に炎は振り向かずに答えた。
「お前と俺がここに堂々とこられる時だよ。あの木の下で俺たちは出会った……」
フワリ…と、紅いジャケットが翻る。目に妬きつく真紅。そのまま炎はファイヤーストラトスと共に空間の歪みに吸い込まれて行く。
「待てよ、俺はあんたに……」
告げようとした言葉は届かないままに、空間の歪みは目映い光を放つ。一瞬目を閉じる。目を開けた時には、そこには何もなかった。
枯れていた草や木は嘘のように青々と。竜の腕の中のうさぎも元気になっている。そして……。
「なんで、俺、こんなところに……」
今の自分の状況に竜は戸惑う。さっきまで、裏山の木の下にいたのに。
「お前、知ってるか?」
腕の中のうさぎに離しかけても、ウサギも首を傾げるだけ。
「帰るか……」
腕の中のうさぎを離してやると、竜は山道を戻ろうとする。
「……?」
一瞬、何かが引っかかり、振り返る。
「気のせいか……」
時空の修正作用で先程までの記憶、炎に関することはすべてなくしてしまった。何もかも、なかったことのように……。
だが、時は巡って。竜と炎が山海高校を受験する年に、二人は出会う。当人たちがけっして知ることのない、2度目の出会いを。それは、まだ、この時代の竜には未来の話ではあるけれど……。
《 BACK 》 《 NEXT 》 《 勇者の部屋へ 》