このまま、連れて帰りたいという衝動に駆られる。環境面では天界のが最適なのは言うまでもない。時を同じくして生まれた
天使であるロザリアと赤ん坊サイズのアンジェリークと比較すれば、一目瞭全だ。
(でも、天界に連れて帰ってしまったら、すぐに大きくなって、この姿じゃなくなるのね……)
何かが違うジレンマ…である。だが、ロザリアは真剣だ。
「?」
あどけない顔で首を傾げるそのしぐさは犯罪的に可愛らしい。成長しても可愛いとは思うが、このあどけなさが無くなるのは
大いなる損失のような気がして。
(とりあえず、一度私は天界に戻ったほうがいいわね……)
自分だけの一存で決められることではない。アンジェリークがいるこの場所は紛れもなく、人間の館。人間と関わっていると
したら、また対処法は違ってくる。天使の存在を知られたと言うことになるからだ。
「アンジェリーク……」
小さな天使を呼ぶ人間の声にロザリアは慌てて、アンジェリークから手を離す。気配は消しているから、ロザリアに気付くこと
はない。
「アンジェリーク……」
再び、呼び掛けてくる声にアンジェリークは一度ロザリアを見上げつつも、声の方向に飛んでいった。
「♪」
パタパタと飛びながら、声の主の懐に収まってしまう。それはとても、自然な仕種でとても微笑ましい。それが人間と天使で
なかったらの話であるが。
(随分、あの人間に懐いているのね……)
声の主である人間は寡黙そうな青年。だが、アンジェリークは彼の腕の中で幸福そうで。例えるなら、隠者と天使。一枚絵にも
見えそうだ。
「誰かいるようだな……」
(!)
気配を消しているから、普通なら、ロザリアの姿は見えるはずがない。だが、人間の中でも、数少なくはあるが、精霊や妖精
などの神秘の存在を感じとることができる者もいる。おそらくは彼もこういった類の人間なのだろう。
「この者と同じ存在か……。もし、この者を迎えに来たというのなら、私は逃げも隠れもしない。この者のためならな……」
口調とは裏腹にアンジェリークに向けるまなざしはとても優しい。慈しむような穏やかな瞳だ。だが、その言葉の裏を返せば、
アンジェリークのためにならないと判断したら、彼はアンジェリークを渡さない、と言うことだ。
「私は部屋に戻るが…おまえはどうしたい?」
「♪」
返事のかわりにギュッと、クラヴィスにしがみつく。その愛らしさに微かな笑みを浮かべると、小さな天使を抱き直して、館に
戻っていった。
(何よ、あの人間は!)
理不尽な苛立たしさを感じてしまう。本来なら、時を同じくして生まれたロザリアの方がアンジェリークに最も近い存在なのだ。
それなのに、アンジェリークを独占しているのが人間であるなんて。
(もう少し、様子を見る必要がありそうね……)
今や、ロザリアの胸の中には天界を降りてきた時よりも、はるかに強い使命感が満ちていた。
ロザリアVSクラヴィスです。あはは。すっかり、使命を忘れてますよ。ロザリアってば。
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