気配を消したまま、ロザリアは窓から、館の中をのぞき込む。以前は締め切ったままだったのだが、アンジェリークの
ために…と、リュミエールが外の光を取り入れさせるようにクラヴィスを説得し、受け入れさせた。よって、居間などは
カーテンが開けられ、ふんだんに陽光が取り込まれている。そのおかげで、ロザリアも中の様子が伺いやすく、助かって
いる。
居間ではクラヴィスがアンジェリークを膝の上に置いて、カードを繰っている。綺麗で神秘的な絵が多いので、中身が
分からなくても、じっとクラヴィスの手の動きとカードを見ているのだが、体全体で動くので、金色の髪の頭がフワフワ、
くるくると動いて、とても可愛らしい。
(か、かわいすぎる……!)
思わず心の中で絶叫するロザリアはクラヴィスが羨ましくて、仕方かない。すっかり、自分の役割を忘れていた。
「クラヴィス様、お茶にいたしませんか?」
居間に入ってきた新しい人間にロザリアは驚く。天使であるアンジェリークに関わる新たな人間の存在だ。考えて
みれは、この館は広いのだから、人間が複数いるのは当然と言えば、当然。問題はどう対処するべきであるか、だ。
「今日はアンジェリークのお好きなイチゴのタルトですよ」
「♪」
リュミエールの言葉にパタパタと手を上下させる。それから、じぃっとクラヴィスを見上げて、おねだりのポーズ。クラ
ヴィスの服の裾をギュッと掴んで。あまりにも愛らしい様子にその様子を窓の外から見ているロザリアはドキドキである。
「仕方のない天使な……」
そう言いつつも、クラヴィスがアンジェリークに向ける視線はとても優しく、手にしていたカードを片付け始める。
「♪」
現金にも満面の笑顔になり、クラヴィスの膝の上に座り直す。結局、いつも甘い自分に苦笑するしかない。それを傍らで
見ているリュミエールはどうみても、そんな彼を楽しんでいるとしか思えず、満足げに微笑して、頷いてさえいる。
「さ、アイスココアですよ」
「♪」
大好きなものを出してもらって、ご満悦といった顔。クラヴィスとリュミエールはハーブティである。
アイスココアのグラスを小さな両手で精一杯支えて飲む。タルトはクラヴィスが適当な大きさにフォークで切り分け、アン
ジェリークの口許に運ぶと、あーんと口を開けて、パクリと口に入れてもらう。とても、可愛らしい光景ではある、アンジェ
リークに関しては。
(何だか、餌づけされてるみたい……)
もしくはひな鳥が親鳥から、餌をもらう図、のようだ。可愛らしいことには違いないのだが。
「……?」
「どうした?」
不意に口を閉じてしまった膝の上の天使をクラヴィスはのぞきこむ。
「……」
「あれか……」
アンジェリークが指を差すのは窓の外。ロザリアが居る辺り。気配は消してあるとはいえ、同じ天使であるロザリアに気付
かないはすがない。
「どうかなされたのですか?」
「天使はこの者だけではなく、窓の外の客人も同じらしい……」
その言葉の意味を計りかねるが、余りいい意味でないことは想像がつく。
「窓の外から、のぞいて来るような客人はこの家には必要がありませんね」
穏やかに微笑むとリュミエールは今のカーテンを閉めてかかる。カーテンと言っても、レース製なので、光源に困ることは
ない。ただ、のぞいているロザリアには、中の様子が見えなくなってしまう。
(あの人間、優しそうな顔をしてるけど、手ごわそうね……)
人間は見た目で判断できない、そんなことを学習したロザリアであった。
うちのリュミエールって、一体……。
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