会話のない食事は味気がないという。だが、例外もある。
ランプが光源の食堂の中。その食卓には交わす言葉もなく、黙々と時が過ぎてゆく。だが、それ以上に不思議な暖かさに包ま
れていた。
「美味しいですか?」
「♪」
リュミエールの言葉ににっこりと頷き、美味しそうにデザートを食べている小さな天使、アンジェリーク。すっかりクラヴィスの
膝の上が定着してしまった。
「本当に美味しそうに召し上がる……」
至福の表情とも言うべき愛らしさ。思わずリュミエールもクラヴィスも自分の分のデザートを食べさせてしまう。
「この小さな身体のどこに入るのでしょうね……」
永遠の謎とも言うべき命題かもしれない。だが、現実にこの小さな天使は今も三つ目のケーキを食べ始めている。お茶の
時間もアンジェリークのためだけに美味しいお菓子を取り寄せている。その時もやはり、クラヴィスの膝の上…である。
「砂糖菓子でできているのかも知れぬ……」
「……そうかも知れませんね」
フワフワとした愛らしい笑顔でケーキを頬張るアンジェリーク。プニプニとした柔らかいほっぺはマシュマロのよう。金の髪は
細かい砂糖細工。緑の瞳はキャンディ。その存在こそが、甘くて、心をいやす砂糖菓子のよう。
そんな二人の会話など、何も気にせぬかのように、小さな天使はクラヴィスの膝の上で、至福の時間を過ごしていた。
占い師として、生計を稼いでいるクラヴィスは午後を少し過ぎた時間に館を出る。
「行ってらっしゃいませ……」
「ああ……」
いつもは玄関まで見送るのがリュミエールの習慣であるが、ここ最近は変わっていた。
「行ってくる……」
「……」
リュミエールの手の中にいるアンジェリークに話しかけると、アンジェリークは小さく手を振る。その光景は、出勤するパパを
見送る小さな娘の図…である。
実際、近所の人には『親戚の子を預かっているのです』と、リュミエールが根回しをしている。つい最近、公園デビューも果たし、
愛らしい笑顔を振りまいたアンジェリークは近所のお子様のアイドルと化している。
「本当に愛らしいですね……」
「?」
クラヴィスの姿が見えなくなるまで、手を振り続ける健気で天使に笑みをこぼさずにはいられないリュミエールであった。
さて、アンジェリークはクラヴィスがいない間はリュミエールと一緒にいることになる。リュミエールは絵を描いたり、ハープを
弾いたりとして、生計を立てている。演奏会などでも高名なのだ。 リュミエールのハープを聞きながら、お昼寝したり、一緒に
お絵描きをしたり。時々は庭で蝶と戯れたりしている。
まだアンジェリークがこの館に来て間もない頃、窓から庭で蝶が飛んでいるのを見て、外に出たがったことがあった。当然、
ぱたぱたと飛び回る光景を一般人に見られたら…と思い、リュミエールは止めようとしたのだが、クラヴィスはそれを許した。
「……クラヴィス様?」
「私の館なら、どんな生き物がいても、不思議ではあるまい」
「クラヴィス様……」
あまりといえば、あまりな言葉。だが、物静かで、どこか神秘的な雰囲気を持つクラヴィスを魔法使いだの、魔王の化身では
ないかという声がご近所から聞こえなくはないが、自分でいわなくても、と思ってしまう。
「それにこの者には陽光がよくにあう」
「……そうですね」
自然のままに置いてある庭で、四季折々の花の中、蝶と戯れる天使の髪は陽光をキラキラと乱反射させて、愛らしくも、神々
しく。納得せざるを得ない。
「今日も良い天気ですね」
スケッチブックには蝶と戯れる天使の絵。あまりにも愛らしくて、その姿をとどめておくために。
館には何冊ものスケッチブックが置かれていたのは言うまでもない。
書きたくって仕方なかった、ケーキを美味しそうに食べる天使リモージュ〜。この子って、癒し系。存在するだけで、癒されるの〜。
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