静かな空間をクラヴィスは好んでいた。そのため、室内の証明も比較的落としている。だが、パタパタと興味一杯といった感じで
瞳を輝かせて、部屋中を飛び回っている小さな天使には暗いのかもしれない…と、リュミエールは思う。
「クラヴィス様。お食事の用意が出来ました」
食事の支度はリュミエールが…と言うわけではなく、決まった時間に料理人がやってきて、準備をしてゆく。部屋の掃除なども
業者が毎日行なう事になっている。リュミエール自身も有名なハープ演奏者であり、指に怪我をすれば困ることもあっての事。
食堂も落ちついた雰囲気で、ランプが光源となっている。サラダやパンなどをリュミエールは小皿に取り分ける。
「天使なのですから、お肉は駄目ですよね……」
元々、リュミエールはサラダなどのヘルシーなものを好むし、クラヴィスは食べるものにあまり執着せず、スープなどを好むという
コック泣かせな人たちである。
「あなたの専用の食器も必要ですね……」
パタパタと飛びながら、リュミエールの手の動きを見ている天使に微笑みかける。赤ん坊サイズの天使なら、赤ん坊用の食器が
ちょうどいい。
「あと、椅子も必要ですね……」
リュミエールクラヴィスも背が高いので、テーブルも椅子も高めのもの。だが、この小さな天使には高すぎて、テーブルギリギリに
顔を出すのが精一杯という状況になる。
「赤ん坊用の椅子を急いで取りよけなければいけませんね……」
パタパタと飛ぶ姿も愛らしいが、飛んだままで食事と言うわけにも行かない。椅子を取り寄せるにしても、今日は遅い時間である。
今日はクッションを幾重にも重ねようか…などと、リュミエールが思考を巡らせていると、
「貸せ……」
と、言うや否や、ひょい…とクラヴィスがアンジェリークを捕まえる。そして、そのまま椅子に腰掛ける。アンジェリークはクラヴィスの
膝の上にちょこんと載っている。ちょうどいい高さである。
「クラヴィス様……」
何と言うか…ちょこんとクラヴィスの膝の上に乗せられているアンジェリークは玩具のよう。載せられている本人がなまじ愛らしい
ために、そう見えてしまうのだ。クラヴィスの持つ寡黙な雰囲気とのアンバランスにどのように言葉をかけるべきか、リュミエールで
すら躊躇する。
だが、当のアンジェリークはクラヴィスの膝の上でニコニコと笑顔を振り撒いている。
「そこがよろしいねですね」
「♪」
コクコクと頷くアンジェリーク。そう言えば、クラヴィスを気に入って、ついてこようとしたと言う。この場所はこの天使にとって、特等
席なのかもしれない。
(それにクラヴィス様も……)
無関心を装いながらも、この天使を気に入っているようだ。
「では…お食事にしましょうか」
リュミエールも席に座り、静かな食事が始まる。だが、アンジェリークにはスプーンやフォークのサイズが大きすぎて、使いこなせて
いない。カチャカチャ…と食器の音が静かな食堂に響く。
「……少し待て」
そう言うと、クラヴィスはアンジェリークに食べやすい大きさに切り分ける。
「使うのにはこれがいいだろう」
デザート用のフォークは小さめなので、まだ天使に使いやすい。パンも契ってもらったので、ぱくぱくと美味しそうに食べ始める。
「クラヴィス様はお優しいのですね」
「静かに食事をしたいだけだ……」
そう言って、クラヴィスは黙々と食餌を続ける。クラヴィスの膝の上ではアンジェリークが小さなカップに入れてもらったスープを
飲んでいる。天使を見るクラヴィスの瞳の光は微かだが、柔らかで優しいことにリュミエールは気づく。
(本当にお優しい御方ですね……)
小さな天使はこの優しさを初めて見たときから気づいていたのだろう。リュミエールもついつい笑みをこぼす。
デザートのケーキを食べ終えると、すっかり満足した様子でクラヴィスの膝の上でくつろいでいる。しばらくして、食後のコーヒーを
のみ終えたクラヴィスがアンジェリークを抱きながら、食堂を後にすると、リュミエールは呼び鈴を鳴らして、後片づけをさせる。
食事の間は必要以外の人間がいるのを好まないクラヴィスのためである。そして、自分も食堂を後にした。
食後の穏やかな時間はたいていリュミエールのハープの音に耳を傾けながら、クラヴィスは星を眺めたり、物思いに耽ったりして
いる。だが、小さな天使がその膝の上で眠ってしまっている状態ではそうもいかず、無表情で優しく髪を撫でている。リュミエールの
演奏を聞いているうちに、眠りに落ちたのだ。
「眠ってしまわれましたか……」
「……あれほど飛び回っていれば、疲れもするだろう……」
小さな身体で一生懸命ぱたぱたと飛び回り、愛らしい笑顔を振りまいて。その笑顔は心の中に灯りが点されたような感覚をもたら
せてくれる。リュミエールはストールを天使にかけてやる。
「リュミエール。もう一曲聞かせてくれ……」
「……わかりました」
優しい音色が再び奏でられる。それは小さな天使の眠りを決して妨げることはなく、むしろその眠りを守るような音色だった。
何て言うか…小さな子供を引き取った頑固なおじいさんと優しいおばあさんって感じになってる……。リモージュ、コレットより甘えたい
放題だし……。
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