クラヴィスがアンジェリークを連れて、戻ったのは町外れにある自分の家だった。
「ここが私の家だ……」
 庭はそれなりに広く、家も館といったほうがいい大きさである。無造作にクラヴィスがドアを開くと、しばらくしてから、バタバタと
足音が近づいてくる。
「お帰りなさいませ、クラヴィス様……」
 駆け寄ってきたのは優美な印象の青年。名をリュミエールといい、著名なハープの演奏者である。
ひょんなことでクラヴィスと知り合ったのだが、彼の生活能力の皆無さと無関心さに彼の中にある世話好きの血が騒ぎ、世話を
焼くうちにこの館の第2の住人となってしまった。
「おや、その赤ん坊はどうなされました?」
 クラヴィスの腕の中の存在に気づき、優美に首を傾げている。
「赤ん坊ではない。天使らしい……」
「天使…ですか?」
 確かに赤ん坊は小さな天使のように可愛いが……。戸惑うリュミエールに構わず、クラヴィスは腕の中の存在を中に投げ出して
しまう。
「ク、クラヴィス様?!」
 慌てて、捕獲しようとするリュミエール。だが、いつまでたっても、腕の中に落ちてこない。
「え……?」
 パタパタと羽音がする。フワフワと目の前に浮かんでいる小さな存在。
「だから、言っただろう。天使…だと……。名はアンジェリークというらしい……」
「アンジェリーク…ですか……」
 フワフワと飛んでいる小さな天使はにっこりとリュミエールに微笑みかける。無邪気なその表情はまさしく天使の笑顔。
「初めまして。私はリュミエールと申します」
 優美な笑顔で天使に話しかける。こんなに愛らしい天使を目の前にして心が和まないはずがない。
「でも、どうなされたのです?」
 てんの御使いとも呼ばれるその存在がこんな人間界にいるはずがない。
「歩いていたら、空から光の塊が降りてきた。そうしたら、これが目の前にいた」
「はぁ……」
 これ扱いされた天使はフワフワと飛んでいる。
「あなたはどうしてここにいるのですか?」
「……」
 ちょこんと首を傾げる様も愛らしいのが、天使も何も知らない様子。赤ん坊サイズということは生まれたばかりなのかもしれない
ということに思い当たる。
「彼女をここに置くつもりなのですか?」
「私には関係ないから…と、ほうっておこうとしたら、ついてきたので連れてきた」
「……」
 何も言えなくなる。この人らしいといえば、この人らしいのだが。
「ついてきた…のですか」
 ジッと天使を見つめる。寡黙で近寄りがたい雰囲気を持つクラヴィスを一目で気に入る…ある意味、大物である。
「クラヴィス様の事がお好きなのですね」
「♪」
 リュミエールの言葉にコクコクと笑顔で頷くアンジェリーク。フフ…とリュミエールも笑みをこぼす。
「やはり、天の御使いですね。本当に優しい方がわかるのですから……」
 小さな天使はキョトンとリュミエールを見つめている。
「じゃあ、これからよろしくお願いしますね」
 スッと右手を差し出すと、アンジェリークは小さな手でリュミエールの手を握り返す。それから、パタパタとクラヴィスのところに
飛んでくる。
「……?」
「♪」
 差し出してくる小さな手。それが意味するものは……。
「私に握手をしろ…と」
 その言葉に満面の笑顔で頷くアンジェリーク。
「……」
 ジイッと大きなエメラルドグリークの瞳が真正面にある。クラヴィスはそっと手を伸ばし、天使の頭を撫で始める。フワフワの金の
髪は心地よい手触り。天使の方も嬉しそうにされるままになる。その様子をリュミエールは穏やかな眼差しで見ている。
 こうして、天使と隠者との生活は始まろうとしていた。


天使リモージュの続きです。コレットよりこの子の方が積極的。リュミエール様はクラヴィス様出すなら、この人が出ないとなんだか
いけない気がして……。怖いです。ちなみに。

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