占い師は自分の未来だけはけっして占うことはできない…その言葉を身を持って痛感することになるとは、今の今まで無かった。
占い師の名はクラヴィス。水晶球で今現在から開かれる未来を写し出し、進むべき道を選ばせる…それが彼の生業である。

 彼の占いは道に迷う者に選ぶべき道を気づかせる。淡々とした言葉の中に重みがあり、自分の未来を自分で選んだという満足が
残る。そのせいもあって、食べて行くには困らないだけの稼ぎをしていた。

 だが、そんな彼に予想もしないことが起こった。どんな優秀な占い師でも、自分の未来だけは水晶球に映すことはできないのだ。
「……?」
 その日の稼ぎを得て、家路に着こうとした彼の前に、いきなり淡い光に包まれた小さな球体が舞い降りてきたのだ。
「これは……?」
 触れてみると、暖かい。そして、確かな鼓動が聞こえる。優しい命のリズム。
 ポーッと光が少しずつ強くなる。そして…目映く光った瞬間、クラヴィスは瞳を閉じた。しばらくして、目を開くと……。
「おまえは……?」
 クラヴィスの目の前には、彼の目線に合わせて、小さな赤ん坊が浮かんでいた。だが、よく見てみると、その背には小さな翼が
はえていて、ぱたぱたと羽ばたいている。夜目にも目映い金色の髪と、エメラルドグリーンの瞳が印象に残る。

「……♪」
 にっこりと笑顔を向けられて、クラヴィスは現実に立ち返る。
「私には関係ない……」
 クルリ…と踵を返すと、すたすたとクラヴィスは歩き出す。何も見なかったことにすることにしたのだ。他人の未来に関わる仕事を
しているせいか、他人との関わりをにクラヴィスは嫌う。彼に近づいてくる者の中には、彼の力を利用しようとする者がいたせいも
あり、彼の人間不信はなかなかに根深い。

 だが、ズルズルした衣装の割にはスタスタと速いペースの彼の足取りに、パタパタと飛びながら、と天使は着いてくる。気づかれ
ないように、少しだけ後ろに視線を向けると、必死に羽根を羽ばたかせて、着いてこようとしている。

(刷り込み…というやつか……。だが…最初に目にしたに人間が悪かったと言うことだ……)
 他人と関わらずに過ごしてきたクラヴィスである。そんな彼が天使とうまくいくはずがない。諦めて、他の人間に着いていく方が
天使のためにもいい。そう判断して、けっして歩みを止めることはない。だが、そんなクラヴィスに天使は必死にパタパタとついて
くる。

(まったく……)
 必死でついてくる様子を想像して、クラヴィスの表情が微かに緩む。だが、その音が急に途切れてしまう。
(諦めたか……?)
 着いてくる音が聞こえなくなって、安堵する気持ちよりも勝る、寂しさを感じて、クラヴィスは苦笑する。
(私などに拾われるよりも…幸せなのだ……)
 苦笑混じりに振り返る。だが、そこには……。
「〜〜」
 木の枝に引っかかって、もがいている天使の姿。必死に羽根を羽ばたかせているが、外れない様子。
「……」
 泣きそうな瞳でクラヴィスを見つめている。まるで、捨てられた小猫のような瞳。
「まったく…手間のかかる……」
 言葉とは裏腹に、その表情には確かな笑顔。
「おとなしくしていろ……」
「……」
 コクコクと頷く天使の服に引っかかってる枝に手をかける。しばらくすると、枝が外れる。
「……」
 じっとクラヴィスを見つめる天使。クラヴィスは不意に天使の腕の腕輪に気づく。
「A・N・G・E・L・I・Q・U・E……。アンジェリークか。そのままな名だな……」
 そう言うと、クラヴィスは再び歩き出してしまう。だが、その歩みは今までよりもゆっくりな足取り。アンジェリークはどうしようかと
戸惑ってしまう。青年は助けてはくれたけれど、また置いていかれるのか…と。

 だが、不意にクラヴィスの足取りが止まる。
「どうした? 着いてこないのか……?」
「……!」
 その言葉にアンジェリークの顔が明るく輝く。ぱたぱたと嬉しそうに羽根を羽ばたかせて、青年に着いてゆく。
クラヴィスはその様子を見て柔らかな笑みを浮かべる。こんな暖かい気持ちは初めてで。

 そうして…青年と小さな金の髪の天使との物語は始まる事になる。

私が作った同人誌“ANGEL PLACE”の外伝です。あれは天使コレットとアリオスのお話なのですが、そこに出てくる女神様が
この話の天使リモージュなのです。まぁ、同人誌を読まなくても判るお話にはして行きます。

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