そして、時間は過ぎて。学校帰りのアンジェリークは定期購読している雑誌を求めて、駅前の商店街まで来ていた。
「えっと…今月号のオレンジページ……。」
この辺りが彼女らしいと言えば彼女らしいといえるし、ファッション雑誌などはジョヴァンニが買ってきたのを病院に
置いていってくれるので、買う必要がないことも確かである。まぁ、ジョヴァンニの趣味とアンジェリークの趣味が一致
することは希なのではあるが。
「ケーキ食べたいなぁ……」
近くの喫茶店を見て、アンジェリークは溜め息を吐く。女の子一人でケーキを食べるなんて、寂しすぎる。
「今度、レイチェルと来ようっと」
そう思い、踵をかえすアンジェリークだが、ふと店内に目が止まる。「あれ…ジョヴァンニにカーフェイ……?」
見慣れた二人が店内にいる。
「デートかしら……なんて、あるわけないか」
自分で言った言葉に、突っ込んでしまう。あの二人とて、たまには外でお茶をしたい時があるのだろうと思い、その
ままスーパーへと向かうアンジェリークなのであった。
一方、店内では……。
「で、何の用だ?」
「そうそう。僕達も暇じゃないんだけど」
カーフェイはきつい視線を向けながら、ジョヴァンニはマニキュアが剥がれてないかと、気にしながら、目の前の
人物に問いかける。
「あなた方を引き抜きに来たのですよ……」
丁寧でありながら、淡々とした口調。だが、カーフェイもジョヴァンニも警戒を解かない。
「俺たちを引き抜く…というより、あの方に戻ってもらうために…の間違いじゃないのか?」
「さぁ? ただ、あなた方のような腕のいい者たちがあのような小さな医院に納まっていいはずがないと申している
だけですが」
「あんたの腹の中はどこまで黒いか、測れないからな、キーファー」
カーフェイのその言葉にキーファーは口の端を少し上げて笑うだけである。
「もちろん、あの方にも戻っていただきますよ。ただ、その際、あなたたちも一緒に…ということですよ。元々はあの
方が治めるべき場所なのですから。そのために、あなたたちのご協力を仰ぎたいと言うだけです」
「あの方とあの病院のことは俺は詳しくは知らんよ。だが、俺は俺のやりたいようにしているだけだ」
そう言って、カーフェイが煙草を取り出そうとすると、ジョヴァンニがそれを取り上げる。
「僕の横で吸わないで。匂いが移る」
「うるさい奴だな……」
取り返したものの、カーフェイはそのままポケットに戻す。
「悪いようにはしませんよ。あなたたちにはそれなりのポストも用意します。条件も今よりずっといいはずですが」
そう言って、キーファーは紙袋から二人に書類を提示する。だが、ジョヴァンニはそれを一瞥するとびりびりと
引き裂いてしまった。
「何を……!?」
さすがに驚きを隠せないキーファー。
「キャハハ……。あんたでも、そんな顔するんだ」
心底可笑しそうに笑うジョヴァンニ。
「生憎、あの人がそれを望んで、僕達にも着いてくるように言うなら、話は聞くけど。あんたが自分で勝手に画策
してることに踊らされるつもりは僕にはないってことだよ」
そう言うと、クシャリと髪をかきあげる。
「それに僕は今の生活が気に入ってる。好きにやらせてもらっているって言うのに、なんで今更、権力なんかに
しがみつかなきゃならないっていうんだい? 少なくとも…こういうカッコはさせてもらえるはずもないしね」
そう言って、不敵にすら言ってみせるジョヴァンニの唇には鮮やかなルージュがひかれている。着ているものも
女物のスーツ。傍から会話を聞いていれば、男言葉を使う美女にしか見えない。
「俺も同感だな」
そう言うと、カーフェイはアイスコーヒーを飲み干してしまう。
「俺も、俺のやりたいようにさせてもらっているからな。権力の下につくなんて、性に合わない。それにそんなことで
権力を手に入れたとしても、足下をすくわれるのが見えてるからな」
「そう言うことだよね、結局のところ」
くすくすジョヴァンニが笑いながら、立ち上がる。
「じゃ、僕達の分は払っとくから。お一人でごゆっくり」
きゃはは…と笑いながら、出てゆくジョヴァンニ。
「俺も常連の患者が来る時間だからな……」
レシートを掴んでカーフェイも立ち上がる。
「諦めたわけではないですからね」
その言葉に振り向かない二人にキーファーは微かに苦々しげな顔をする。
(やはり…あの者たちでは無理…か……)
キーファーは冷え切ったコーヒーを一口飲む。カーフェイもジョヴァンニも自分の腕に確かな自信を持つ分、我が
強い。そんな二人を御することはやはり難しいと確信する。
(ならば…まだ手はある……)
ククク…と喉の奥で笑うと、キーファーは残りのコーヒーを飲み干した。その瞳には不穏な光を浮かべて……。
ごめんなさい。今回もアリオスもアンジェも出てません。でも、ジョヴァンニって、結構ゲームの方と離れてしまったような…
まぁ、パラレルだし。女装看護士の彼が書きたくて、書き始めた話っていうのもあるし…
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